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「きらら」書店レポート第八回京都水無月大賞三省堂書店京都駅店 鶴岡寛子 さん“本当にいい小説を書いてくださってありがとうございました”と吉田篤弘さんにお礼を伝えたいです。

 ここ数年、さまざまな都道府県で書店員主導の賞が増えている中、2008年に産声を上げ、今年で第八回目を迎えた「京都水無月大賞」。チェーンの垣根を越え、一丸となって書店業界を活性化させる試みに取り組んでいる同賞の広報担当・三省堂書店京都駅店の鶴岡寛子さんに話を聞いた。

リベンジの気持ちで今年の候補作に選んだ

 京都で働く書店員が毎年集い、現場担当の視点を大事にしながらセレクトし、その年のお薦め文庫一冊を決める「京都水無月大賞」。賞の名前どおり、毎年六月(水無月)一日にその年の受賞作が発表され、京都ではすっかり風物詩になっている。

「年始から二月末の間は、本屋大賞のノミネート作を読破するのに忙しい時期です。場所柄、京都は花見と紅葉のシーズンが繁忙期ですし、夏になると版元さんの文庫フェアもあります。準備に充分な時間をかけられるタイミングを考えると、四月中に候補作をまとめ、五月いっぱいはノミネート作のフェア、そして六月に受賞作を発表するという流れがよかった。それに“水無月”という言葉には、どこか京都っぽい響きがありますよね」

“水無月大賞”への参加基準は、「京都府下に店舗がある書店員」、「二カ月にわたり“水無月大賞”フェアを店頭の良い場所で展開できること」。そして一番大切なのが、「好きな本を楽しくたくさん売るぞ! というやる気のある人」だという。

「この賞は書店員さんの“やる気”を重視しています。八年続けてきて、賞の参加メンバーが入れ替わったり、投票の方法もその時々で違っていますが、ずっと変わらないのはこの基本的なスタンスです」

 今年は五人の書店員が参加し、これから売りたい「掘り出し本」の文庫一冊を推薦した。ノミネートされた作品は、『カフェかもめ亭』(村山早紀)、『アー・ユー・テディ?』(加藤実秋)、『七つの海を照らす星』(七河迦南)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘)、『しのぶ梅』(中島要)の五タイトル。ミステリーから時代モノまで、バラエティ豊かな小説が出揃った。候補作全てを参加者全員が読み、投票の結果、今年の一位に輝いたのが『それからはスープのことばかり考えて暮らした』だ。

「実は昨年の“水無月大賞”にもこの作品はノミネートされていましたが、最終選考で落ちてしまったんです。もともとクラフト・エヴィング商會さんの本が好きで、昨年『それからはスープのことばかり考えて暮らした』を読んだ時に“一位は絶対これだ!”と思った。どうしても諦めきれなくて、リベンジの気持ちを込めて私が今年の候補作に選びました(笑)」

 本書は、まだ二両編成の路面電車が走る町を舞台に、隣町の映画館まである女優が出演する邦画を繰り返し観に行ってしまう青年の物語。商店街のサンドイッチ店の店主や、アパートの屋根裏部屋に住むマダムと青年とのやりとりには、ほっこりとした気分にさせられる。銀幕の女優に恋した青年に訪れる小さな奇跡に、読後は静かな感動が胸を打つ。

「主人公のオーリィは、無職なのに映画ばかり観ていて、ちょっと大丈夫かな? と心配になってしまうような人なのですが、そんな彼を優しく包んでくれる町の雰囲気がよくて、私も住んでみたいなと思わされました。それにサンドイッチにしろスープにしろ、登場する食べ物も本当においしそうで、気持ちがあたたかくなります。最近、ぎすぎすした世の中なので、この本を読んでほっとひと息ついてほしいですね」

 大賞作発表後は「水無月大賞」受賞記念のオビが巻かれた文庫を並べ、フェアを盛り上げている。参加書店はもちろん、この賞に賛同する京都の書店での展開も始まった。

「今年も版元さんにお願いをして、“水無月大賞”のロゴが入ったオビを作っていただきました。どの版元さんもとても快く協力してくださるので、本当に有り難いです。このロゴは第一回の時に参加書店員が作ったオリジナルのもので、京都発だとわかるデザインが素敵なんですよ。特製のPOPも付け、それぞれの書店員のお薦めコメントを書いたフリーペーパーも用意しています」

 鶴岡さんの店ではお客様に一番アピールできる棚で、過去の受賞作も含めてフェア台を作った。また書店の現場以外でもブログやSNSなどを通じて、賞の情報を多方面に向けて発信している。

「私たちから勝手に表彰させていただく賞なので恐縮していますが、まずは吉田篤弘さんに“本当にいい小説を書いてくださってありがとうございました”とお礼を伝えたいです。この“水無月大賞”が発端になって、さらに多くの読者が増えるようにがんばっていきます」

( 文・取材/清水志保 )

 

受賞者・吉田篤弘さんのことば

 今回の受賞に運命のようなものを感じています。というのも、僕はいま、京都で考えて京都で原稿を書き、京都で印刷製本をして、京都にあるミシマ社の編集部から送り出す本を書いているところなのです。そうしたさなかに、このような手づくりの嬉しいプレゼントをいただき、とても励みになります。ありがとうございました。

 

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