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今月飲むのを我慢して買った本

原田マハさんの『ジヴェルニーの食卓』は、絵画に詳しくなくても、絵画が今までよりも身近に感じられます。

旭屋書店新越谷店(埼玉)猪股宏美さん

 家でまったり飲むのも友人とわいわい飲みに行くのも大好きな私が今月飲むのを我慢して買った本、一冊目は森沢明夫さんの『大事なことほど小声でささやく』です。身長二メートル、スキンヘッドで超マッチョなオカマ(!?)のママと、同じスポーツジムに通うジム仲間のお話です。キャラクターが濃い! それだけで面白そうなのですが、このママ、懐の深さも半端なかったのです。そんなママが様々な悩めるジム仲間たちにかける言葉が胸に沁みます。いつもみんなの気持ちや状況をお見通しのママですが、そんなママの完璧すぎない人間らしさを感じさせるエピソードに私もママの大ファンになってしまったのでした。ママのお店「スナックひばり」のバーテンダー、カオリちゃんの作るカクテルと、花言葉ならぬカクテル言葉もカクテル好きの私には堪りませんでした。

 二冊目は十四歳の世渡り術シリーズの新刊『学校では教えてくれない 人生を変える音楽』です。お酒と同じくらい音楽も大好きなのですが、著者陣の豪華さに即買いしてしまいました。作家、漫画家、音楽家、学者、芸能人と多方面で活躍する方々が、これぞ!という一曲を選び、紹介してくれる一冊です。普段なかなか知ることのない他人の好きな音楽や、その曲にまつわるエピソードが垣間見られます。

 クラシックからロック、歌謡曲まで幅広い音楽が紹介されており、読みながら、どんな音楽だろう?とインターネットで視聴しながら楽しみました。

 三冊目は原田マハさんの『ジヴェルニーの食卓』です。美の巨匠たちとその作品が、彼らと同時代に生き、近くで創作活動を見つめた女性たちの視点で描かれています。絵画は詳しくないのですが、彼女たちの巨匠に対する尊敬の念、優しさ、彼女たちの目を通して語られる彼らの人柄に興味をかき立てられました。史実に基づいたフィクションですが、実際にこんな物語があったのかもしれないと思うと、絵画が今までよりも身近に感じられます。前作の『楽園のカンヴァス』を読んだ後は美術館に行きたくなったのですが、今回は自分で絵を描いてみたくなるような作品でした。

 キンと冷えたビールが美味しい季節です。休日の昼下がりにビール片手の読書にぴったりな本はないかなぁ?と物色中です。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

ぜひこのゾワゾワする感じを体験してほしい、警察学校という特殊な環境が舞台になった長岡弘樹さん『教場』。

三省堂書店ルクア大阪店(大阪)田原永美子さん

 まずおすすめするのは、ジュンパ・ラヒリ著『停電の夜に』です。

『病気の通訳』でデビュー作にしてピューリッツァー賞を受賞したインド系アメリカ人二世の作家です。私はこの作家さんの作品がなんだか好きで、翻訳されたものは、すべて読んでいます。

『停電の夜に』は短編集で、どの作品も決して大きな事件が起こることもなく、日常の普通の人々の物語です。その根底に流れるのは、孤独感や失望感だったり、異文化との溝だったり、ある種の閉塞感。

 表題作「停電の夜に」も、子供を死産したことにより溝のできた夫婦が、停電になったことをきっかけに始めたゲームで、向きあい、わかりあっていくかのように思われたところ、最後に夫が口にする言葉により、夫婦間のリアリティを突き付けられます。

 号泣、というよりも、一筋の涙を流すように、じわじわと心に入り込む作品です。

 次におすすめするのは、女優・片桐はいりさんのエッセイ『もぎりよ今夜も有難う』です。片桐はいりさんって、なんか気になりませんか? どんな人か知りたくて手に取った一冊です。

 はいりさんは、学生時代に映画館でもぎりのバイトをし、今でも仕事やプライベートで訪れた地方、見知らぬ土地の映画館に足を運んでいるそうです。

 そのバイト時代、訪れた地方でのエピソードに交えて、映画や映画館への思いが熱く語られています。

 はいりさんが訪れた映画館のひとつに、私の祖母の町の映画館がありました。得した気分です!

 最後に、長岡弘樹さんの『教場』。教場とは、警察学校におけるクラスのことで、つまり警察学校内で起こる事件が綴られた連作短編集です。

 それぞれの短篇を読み終えた後に残る後味の悪さ……。その余韻に引きずられるように次の物語へ。ぜひこのゾワゾワする感じを体験してください。

 舞台は警察学校というある意味、特殊な環境なのですが、一歩間違えれば、自分の周りでも起こりそうな人間の恐ろしさに気づかされるのです。

私はこの本を1日1冊1すすめ

文章が読みやすい木皿泉さん『昨夜のカレー、明日のパン』は、立ち止まり寄り道しながら読んでほしいです。

八重洲ブックセンター上大岡店(神奈川)毛利 円さん

 木皿泉さんの『昨夜のカレー、明日のパン』は、とても大切にしている小説です。

 テツコさんは7年前に夫を亡くしてからも、夫の実家で義父と暮らしています。義父のことを「ギフ」と呼んでいたり、山登りを始めようと言うギフに、トモダチの山ガールは紹介するけれど「私は、行かないですよ」とあっさり言ってのけたり、まっすぐできっぱりとした人です。そんなまっすぐさゆえに抱え込んだ想いが、実家に戻らない理由から、夫のイトコに打ち明けた秘密から、そのほかのなにげない言葉からも少しずつわかってきて、どんどんどんどんテツコさんが私の身近な人になっていきます。それはもちろんテツコさんだけじゃなくて、ギフも、イトコの虎尾くんも、隣の家の女の子も、みんなみんな同じです。

 それぞれに抱えている想いがあって、共有したりひとりで背負ったりしながら生きてるんだなあ、というのがなにげない一言からも行間からも伝わってきて、いつも私も一緒になって喜んだり哀しんだり笑ったりしています。

 この本には二度三度と読み返すうちに気づいた言葉や想いがほんとにたくさんあります。木皿さんの文章は大変読みやすくて、ついついさらりと読んでしまうんですけど、ぜひ立ち止まりながら寄り道しながら読んでほしいです。

 もしもテツコさんと友達になれたら、薦めてみたい本が2冊あります。

 1冊目は『さよならのあとで』。英国教会の神学者、ヘンリー・スコット・ホランドの詩の邦訳です。「私はただ/となりの部屋にそっと移っただけ。」という一節に出合ったとき、私が欲しかったのはこの言葉だ! とその場で泣きたくなるくらい胸が痛くなりました。誰もが経験する大事な人を失う悲しみに、そっと寄り添って支えてくれる1冊です。

 2冊目はいとうせいこうさんの『想像ラジオ』です。どこからか聞こえてくるDJアークの声と想像ラジオのジングル。大事な人はいつまでも大切なまま、記憶から消えることなく消すことなく、そっと思い出して会話してまた会う日まで。こんな風に相手と心を結ぶ方法があるんだと気づかせてくれたせいこうさんに本当に感謝したいです。でもテツコさんにこの2冊を渡しても、言葉が何かを解決するなんて信じない人だから、読んでもらえないかも(笑)。


 

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