今月のイチオシ本【デビュー小説】

『永遠についての証明』
岩井圭也
角川書店

 小説新人賞からこんな作品が出てくるとは。第9回野性時代フロンティア文学賞に輝く岩井圭也『永遠についての証明』は、過去にほとんど類例のない、数学青春小説の傑作である。

 角川書店主催の同賞は、一昨年、昨年と2年連続で受賞作が出なかったが、今年は同じ選考委員(冲方丁、辻村深月、森見登美彦)がそろって太鼓判を捺し、文句なしで受賞が決まった。辻村深月の選評にいわく、「クライマックスの数学の証明と、親友が過ごした森の描写、その文章力に圧倒されました。ここ数年の応募作の中では群を抜く筆致の美しさと勢いに魅せられ、気づくと、私も彼の証明を聞くひとりとして物語の中に引き込まれていました」。

 主人公の三ツ矢瞭司は、数学の天才。四国の高校に通う孤独な少年だったが、数学教師に見出されて、私立の名門・協和大学の数学教授と知り合い、特別推薦で数学科に入学する。数学の神に愛されたかのようなその圧倒的な力は、特推生の同期にあたる熊沢と佐那を惹きつけ、3人はひたすら数学に没頭する日々を送る。だが、彼らの"青春"は長くは続かなかった。瞭司の突出した才能はやがて彼を孤立させ、精神を蝕んでゆく……。

 小説は、3人の出会いの17年後、その瞭司が遺した研究ノートを熊沢があらためてひもとくところから始まり、過去に遡って、ひとりの天才の悲運を描き出す。

 ある意味では"青春の蹉跌"を描く文学だし、いっさい数式を使わずに、数学の証明の美しさや興奮を読者に実感させるという意味では、恩田陸『蜜蜂と遠雷』の数学版と言ってもいい(実際、人物配置もよく似ている)。その一方、主人公が少年時代に熱中したのが群論で、最初に書いた論文はムーンシャイン予想のエレガントな別解だった──とかさらっと書いてあると、おお、こりゃすごい! という気分になる(ならない人はググってください)。個人的な好みで言えば、結末はちょっと甘すぎるが、エンターテインメント的にはこれで正解かもしれない。著者は1987年、大阪府生まれ。北海道大学大学院農学院修了。

(文/大森 望)
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