今月のイチオシ本【ノンフィクション】

『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』
春日太一
文藝春秋

 奥山和由は現役でありながら様々な伝説を持つ映画プロデューサーである。彼に映画史研究家の春日太一が計25時間ものロングインタビューを決行し、低迷期にあった70年代半ばから現在までの映画史の裏側を見る見事な記録となった。

 1954年生まれ、子供の頃から東京で育ち松竹の取締役の父を持つ奥山は、高校時代から映画館に入りびたる少年だった。大学生活の終盤、彼は親のコネを嫌い、偽名で映画界に潜り込む。雑用係のような助監督をやりながら、いつか映画界をぶっ壊して革命を起こしてやると強い思いを持っていたという。

 現場を経験した後、憧れの深作欣二監督のいる東映を目指すが、結果的に松竹へ入社した。経理、劇場の経営を経験後、テレビプロデューサーから映画プロデューサーとなった。初プロデュース作品は1982年の『凶弾』。主役は石原良純。しかしヒットはしなかった。

『丑三つの村』『海燕ジョーの奇跡』で実力を蓄え『ハチ公物語』の大ヒットで名前を売り、五社英雄監督のもとで『226』『陽炎』、そして五社監督最後の作品、『女殺油地獄』を製作した。

 北野武監督を誕生させたのも奥山だった。深作が監督をするはずの『その男、凶暴につき』がフライデー襲撃事件でストップし、北野武自身が監督となったのだった。しかしその関係も『ソナチネ』で決裂する。 90年代の映画を盛り上げていた奥山だが『RAMPO』で共同製作のNHKエンタープライズと対立、同名の映画2作が上映されるという前代未聞の事態となった。古い体質の松竹は、1998年、父親もろとも追放する。会社の前で取材を受けた様子をテレビで見た人は多いだろう。

 それから20年。奥山は「チームオクヤマ」を母体に、ナムコ、東北新社、吉本興業と渡り歩きながら映画製作を続けている。会社組織を離れ、自分のやりたい映画を我慢することはなくなっている。

 彼が次にどんな映画を作るのか、関係者のみならず一般の映画ファンもワクワクして待っている。果たして彼にとって天国だろうか、地獄だろうか。

(文/東 えりか)
〈「STORY BOX」2020年2月号掲載〉
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