今月のイチオシ本【歴史・時代小説】

『幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻』
三好昌子
新潮社

 第一五回「このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞を受賞した『京の縁結び 縁見屋の娘』で二〇一七年にデビューした三好昌子は、『京の絵草紙屋 満天堂 空蝉の夢』『群青の闇 薄明の絵師』など、江戸時代の絵師が重要な役割を果たすミステリーや伝奇小説を発表してきた。

 本書も著者が得意とする絵師ものだが、物語の舞台を応仁の乱前夜の室町時代とし、実在の人物や実際の事件をからめることで新機軸を打ち立てている。

 一四五八年。八代将軍の足利義政は、御所を烏丸殿から室町殿に移転することを決めた。三代将軍義満が造営した室町殿だが、六代義教が暗殺された頃から怪しい噂が立ち始め、烏丸殿が新たな御所になった。それを元に戻すため、義政は大規模な工事を始めたのだ。折しも庶民は大飢饉や天災で困窮しており、そこに改築費捻出のために増税が課され、京の市中には多くの死者があふれていた。

 父親が絵所の絵師をしている土佐流の光信は、この混迷の時代に、義政の謎めいたお題から求めている絵を探る「風の段」、室町殿の庭に現れる血まみれの女の正体を探る「花の段」、空飛ぶ鳥を自在に操る鳥舞が上皇の前で興行するに相応しい芸かを見極めるように義政に命じられる「鳥の段」などにかかわっていく。

 光信が巻き込まれる事件は、人ならざるモノが実在することを前提にして謎を解く特殊設定のミステリーになることもあれば、妖異を美しい文体で描く幻想小説になることもあるので、最後まで着地点が読めない緊迫感が楽しめるだろう。

 各エピソードの背後には、政争に敗れた者、権力者の無策で倒れた者など、いつの世も絶えないこれらの人々の怨念が置かれており、とても過去の話とは思えないほどの生々しさを感じるのではないか。

 全編に張りめぐらされた伏線がまとまる最終章「終の段」になると、この怨念と歴史の流れが密接な関係にあることが分かってくる。衝撃的なラストを読むと、負の連鎖を絶ち切るには何が必要なのか、人に感動を与え永遠に残る芸術に怨念を浄化するパワーがあるのかを、考えずにはいられなくなるはずだ。

(文/末國善己)
〈「STORY BOX」2019年11月号掲載〉
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