今月のイチオシ本【デビュー小説】

『トラペジウム』
高山一実
KADOKAWA 本体1,400円+税

 話題の『トラペジウム』は乃木坂46の一期生・高山一実のデビュー長編。男性アイドルでは、NEWSの加藤シゲアキが作家としても活躍中だが、現役のトップ女性アイドルが長編小説を刊行するのは、もしかしたら史上初めてかも。

 主人公は(たぶん房総)半島の地方都市の城州東高校に通う1年生、東ゆう。夢はアイドルになること。とはいえ、いまどきひとりでアイドルになるのは流行らない。そこで彼女は、ひそかにメンバーを集めはじめる。自分が東校の東だから、あとは西南北からひとりずつスカウトして、東西南北の美少女を揃えよう!

 この遠大な計画のもと、電車で見知らぬ高校に遠征しては美少女を見つけて近づこうとする導入がすばらしい。

 最初に赴くのは、南のお嬢さま高校、聖南テネリタス女学院。テニス部で見つけた華鳥蘭子は、縦巻きロールにリボンをつけた、上から目線のものすごい美女。まさにお蝶夫人そのままだが、ただしテニスはめちゃくちゃヘタだった……。

 西は、西テクノ工業高専の大河くるみ。昨年の高専ロボコンに出場し、その超絶美少女ぶりでブームを巻き起こしたロボット研究会のアイドルだが、みずからプログラムを組む理系少女でもある。

 北は、地元近くの書店で再会した小学校時代の同級生、城州北高の亀井美嘉。昔は地味だったのに美しく変身、しかもボランティア活動に励んでいる。

 グループアイドルものは、育成の過程とデビュー後のドラマを描くケースがほとんどだが、メンバー集めの段階に焦点を当てたのが本書のミソ。とはいえ、全員が同じ夢を抱いているとは限らない。はたして4人の美少女の運命は……。

 題名の Trapezium は、オリオン大星雲の中心近くにある散開星団の名前に由来するが、アメリカ英語では不等辺四角形のこと。小説の後半、その意味が、次第に大きくなってくる。もっとも、現実の壁にぶつかって夢が壊れる小説ではないのでご心配なく。文章や構成にまだ若干の粗はあるものの、着地を含め、ユニークで新しい、アイドル小説の秀作だ。作家・高山一実の誕生に拍手を贈りたい。

(文/大森 望)
〈「STORY BOX」2019年1月号掲載〉