スピリチュアル探偵 第8回

スピリチュアル探偵 第8回
四国で探偵を待ち構えていたのは、
"ヒゲダン"先生だった!?


 本物の霊能者を探し求めてはや15年超。この活動はつまるところ、「人は死後どうなるのか?」、「霊魂の世界は本当に存在するのか?」といった根源的な疑問を解決することを目的としています。

 もし答えを持っている人がいるとするなら、それは死後の世界にいる人たちとコンタクトが取れる人物に違いありません。そんな考えから日々、道場破りのごとく自称・霊能者の皆さんと対峙し続けている僕ですが、ある日こんなタレコミが舞い込みました。

「四国の某所に、守護霊鑑定を専門にしている霊能者がいるよ。もともとは何かの分野の学者さんだった人で、地元のテレビでもちょくちょく取り上げられているみたい。よかったら紹介するけど、どうする?」

「うーん、守護霊か」と、思わず難色を示すようなリアクションを取ってしまった僕。守護霊は何をどう言われようとも、見えないこちらには答え合わせのしようがない分野です。そのためわりと不毛な問答に陥りがちで、今ひとつモチベーションが上がらないのが正直なところなのです。

 でも、元学者という経歴はちょっと面白い。もしかすると、死後の世界をロジカルに解説してくれちゃうかもしれません。ちょうど折よく四国出張が入ったこともあり、僕は結局、この先生に会いに行ってみることにしました。

 向かったのは瀬戸内海に面した閑静な住宅街。果たして、今回はどのようなセッションが待ち受けているのでしょうか。

〈CASE.8〉守護霊研究に明け暮れるダンディー霊能者

 地形的な理由から、年間の降水量が非常に少ないことで知られる四国某所。でもその日は今にも雨が降り出しそうな曇天で、見ようによっては霊能者に会いに行くのにふさわしいどんより具合でした。

 訪ねたのは住宅街の中に建つ、ごく普通の一軒家。レンタカーを門前に停めてインターフォンを押すと、還暦前後くらいの女性が静かに出迎えてくれました。ターゲット(霊能者)は初老の男性と聞いていますから、おそらく奥さんなのでしょう。東京から持参した菓子折りを渡して、「今日は宜しくお願いします」とひとこと。

 通されたのは2階の一室で、奥さんがコンコンとノックをすると、ドアの向こうから「どうぞ」と野太い声が聞こえてきました。

「では中へどうぞ。ごゆっくりなさってください」

 奥さんはそう言い残して階下へ降りていきました。ちょっとした緊張感を覚えながら、「失礼します」とドアを開ける僕。そこは立派な本棚に分厚い書物がひしめく、いかにも学者の先生っぽい感じの書斎でした。

「わざわざ遠くからようこそ。そちらにおかけください」

 やっぱり野太い声でそう迎え入れてくれたのは、ポマードで少しテカった髪と整った口髭が印象的な、ポロシャツ姿の男性でした。やや痩せ型ではあるものの、声質といい全体に漂う清潔感といい、壮年ならではのダンディズムを感じさせます。

 室内はほのかにスモーキーに感じられました。この"髭ダンディズム"な風貌からして、きっとパイプを嗜むに違いないと勝手に想像を巡らせた僕。ここはひとつ、今年に流行にのってヒゲダン先生と呼ばせていただきましょう。

 簡素な丸椅子に腰を降ろし、ヒゲダン先生と向かい合う形で、本日もセッションスタートです。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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