スピリチュアル探偵 第5回

スピリチュアル探偵 第5回
またしても東北は福島で調査!
しかも、今回は同伴で見てもらう
ドキドキの体験!?

 その日、僕は出張で福島県へ向かっていました。東北新幹線の車中では、東京駅から一緒に乗り込んだ女性編集者のSさんと2人旅。

 このSさんとはそれなりに長いお付き合いなのですが、この日は少しご無沙汰していたこともあり、往路は互いの近況交換に明け暮れることに。……というよりも、一方的に彼女の愚痴を聞かされること90分。どうやら、最近の職場環境にかなりストレスを溜め込んでいるようです。

 やれ「上司の無茶振りにほとほと参っている」とか、「辞めたいけど転職活動をする時間もない」とか、挙句の果てに「これじゃあ婚期を逃す、どうしてくれるんだ」などと、酒も入ってないのに管を巻かれ続ける僕。上野あたりから始まったこの一連の愚痴シリーズは、大宮、宇都宮を通過したあたりでピークに達し、福島に到着する頃にはこちらもすっかり気が滅入ってしまいました。

 それでも仕事は仕事。この日は福島市内で簡単な撮影をひとつこなし、翌日の取材に備えて、いったんビジネスホテルにチェックインすることに。

 荷解きを済ませて時計に目をやると、まだ16時前。飲みに繰り出すにはさすがに早いし、かといって部屋に閉じこもっているのもなんだかもったいない。どうしたものかと思案していたところ、部屋の内線にSさんから電話がかかってきました。

「そういえば、当たると評判の占い師が福島にいるらしいんですけど、食事の前にちょっと行ってみません? 友清さん、そういうの好きでしょ」

 悩める女性というのはこの手の情報に明るいもの。霊能者ではなく占い師というのが引っかかりましたが、時間潰しとしては申し分ありません。スピリチュアル探偵、出動です。

〈CASE.5〉普段は陶器屋の女店主。しかしてその実態は……!

 聞けば今回のターゲットは、郡山市内で陶器屋を営むマダム。占いが本業ではないものの、とにかく当たると評判で、カウンセリング希望者が跡を絶たないのだとか。

 Sさんが件の陶器屋に電話を入れてみると、意外なほどあっさり、「あら、東京からいらしてるの? それならすぐにいらっしゃい。本当は18時までなんだけど、待ってるから」と言ってくれたのだそう。大急ぎでレンタカーを手配し、いざ郡山へ。

 福島市内から片道およそ1時間。目的の陶器屋はすんなり見つけることができました。郊外の市街地にある、本当にどこにでもありそうな普通の陶器屋さんです。店頭のどこを探しても、占いの文字は見当たりません。

 ショップ付近の手頃なスペースに車を停めて中に入ると、店主らしきマダムがお客さんと談笑していました。

「あら、先ほどお電話くださった方かしら? そちらのソファにどうぞ」

 いかにも人の好さそうな明るい笑顔を見せるマダム。決して広い店ではないのですが、レジのそばに小さな応接セットが置かれていて、僕とSさんは言われるままそこに並んで腰を下ろします。

 マダムは客を見送ったあと、僕たちの正面に腰掛けて、小さな紙を2枚取り出しました。といっても、なにかの儀式に使われそうな仰々しいものではなく、チラシの裏紙を小さく切り刻んだだけのものです。

「じゃ、お2人ともここに、お名前と生年月日だけ書いてくださる?」

 とにかくニコニコと愛想のいいマダム。いかにも街の人気者になりそうなキャラクターです。ただ、スピリチュアルな雰囲気は皆無で、スタンスは接客のそれにしか見えません。果たしてどのようなセッションが待ち受けているのでしょうか。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

今月のイチオシ本 【ミステリー小説】
大人にこそ読んでほしい 絵本作家シルヴァスタインのおすすめ作品5選