スピリチュアル探偵 第12回

スピリチュアル探偵 第12回
花粉症で体調不良の探偵、
そこには霊的な原因があった!?

ライター稼業危うし。前世の因果で失職の危機が!?

 まさかこの好々爺から、これほど殺傷力の高い言葉が飛び出すとは……。何の気なしに放ったジャブに、強烈なカウンターを合わせられた気分です。

「ど、どういうことでしょうか」
「いまはたぶん、すべてにおいて好調な時期なんでしょう。それはわかるの。でも先細っていくのは避けられないよね」

 これまで多くの自称霊能者と対峙してきましたが、仕事の先行きを真っ向から否定されたのはこれが初めて。鵜呑みにしたわけではないものの、胸中穏やかではいられません。

「それは、僕が大きなミスをやらかすとか、何か原因があるんですか?」
「うーん、そういうこともあるかもしれない。でもね、こういうのって大きな流れを汲むものだから」
「流れというのは、運勢のようなものですか?」
「それもあるし、もっと前の、前世から続いているものも大きいよね」

 序盤からスピリチュアル全開なムツゴロウ先生。物腰からして、ひたすら飴で客のご機嫌を取るタイプかと思いきや、予期せぬギャップに一瞬戸惑いました。しかし、ここは食らいつかねばなりません。

「僕、前世で何をしでかしたんでしょうか」
「前世といっても1つじゃなくて、積み重ねだから。因果応報ってやっぱりあるんだよ」
「どうすればいいですか? 何か解決策があるなら教えていただきたいのですが」
「いまの仕事、どうしても続けたいの?」
「もちろんです。やりたいことが、まだまだたくさんありますし」

 ムツゴロウ先生はここでタバコに火をつけ、盛大に紫煙を吐き出しながら言いました。

「毎朝、花を生けて手を合わせてごらんなさい。その際、ご先祖様に感謝の念を捧げるの。これをとにかく来る日も来る日も続けていれば、悪いようにはならないから」

 おお、そっち系の人か。というのがこの時の正直な僕の胸の内。これまでの経験上、自称霊能者の中には、運勢を好転させるために先祖供養や祈祷、瞑想を勧めてくる人が一定数存在します。

 でも、何も起こらなかったら「先祖供養のおかげ」と言えばいいし、悪い方向へ進んだ場合は「お祈りが足りない」で済まされそうだし、絡みにくいことこの上なし。ちなみに僕はまだ会ったことがありませんが、これに乗じて壺などを買わせる悪徳霊能者もいるかもしれませんね。

 ここではとりあえず、「わかりました、やってみます」と、心にもないことを言って話を先に進めることに。

他にもある、前世の因果がもたらす意外な影響

 健康のことや結婚のことなど、いつもの順に質問を重ねる僕ですが、本当に人は見かけによらないもので、ムツゴロウ先生の口から飛び出すのはその後も手厳しい言葉ばかり。

 たとえば健康面について聞いてみると──。

「もうちょっと体を労らないと。内臓だけじゃなく、魂がだいぶ疲弊しているよ。人は生きているだけでいろんな怨念を拾ってしまうものだけど、あなたはとくにひどい。いろんな場所を訪ねる仕事をしているからなのかな。いまのままだと、長生きはできないね」

 ぐぬぬ、と思いながら続いて結婚願望を打ち明けてみると──。

「結婚を望むのはいいけれど、夫婦というのは魂レベルの縁だから。いままでけっこう女性を泣かせてきたんじゃない? 生きてる人間に祟られるということもあるからね。その影響で、いまはまだ結ばれる相手の気配は見えないねえ」

 名誉毀損で訴えるぞクソジジイ、と思いながら憮然としていると──。

「あなたは前世の業をだいぶ引きずっているように見えるの。本来もっと上へ行ける人なのに、いまくらいのポジションで燻っているのはそのためだよね。良くない因果に邪魔をされている」

 口調は優しいものの、魂レベルでディスってくるので胸中はなかなか複雑です。右から左に流せばいいのでしょうが、お世辞に弱い人間というのは誹謗中傷にも弱いもの。なぜ2万5000円も払ってわざわざこんな妄言を拝聴せねばならないのでしょうか。

(このじいさんの話を聞いてると、どんどん気が滅入ってくるな……)

 30~40分ほど経過した頃には、僕の心は半泣き状態。このネガティブ一辺倒のセッションに飽きを感じ始めたところで、僕の鼻腔に異変が置きました。

「へっくしょい!」と大きなくしゃみを一発かましたのを機に、鼻水と涙が止まらなくなってしまったのです。朝のんだ薬の効果が切れたのか、それとも気分が落ちて免疫反応に異常が生じたのか。ともあれ、盛大に花粉症の症状が幕を開けました。

 その後もセッションを続けながら、「ちょっとすいません」と鼻をかむこと数回。するとムツゴロウ先生はこんなことを言い出しました。

「だいぶキツそうだけど、実はその花粉症も過去の因果に紐付いているんだよ。スギの花言葉を知ってるかな? 実は『人の死』という意味があるの。重度の花粉症に苦しめられている人は、前世や前々世で積み重ねてきた悪行に対する禊が済んでいない証拠なの」

 なんでもかんでも前世のせいにするムツゴロウ先生。芸風としては一貫していますが、花粉症に悩む人の多さを踏まえると、この世は悪人だらけじゃないですか。

「というか、スギって樹木なのに花言葉なんてあるんですか」
「そりゃそうだよ。あなたがいままさに苦しめられているのは何なのさ」
「あ……」
「花粉でしょ?」

 最後に一本とられた感じでこの日のセッションは終了。いろいろ釈然としませんが、花粉症がキツいので、さっさと料金を払って退散することにしました。

 あえて結論を言うならば、あれから花を生けて祈ったことは一度もありませんが、幸いこうしてライター稼業を続けることができています。一時は内心ドキドキしていましたが、とくに危機らしい危機もなく、いまとなってはバカバカしいかぎり。むしろ、この間に業界から姿を消したのは、紹介してくれた先輩編集者のほうというオチまで付きました。

 また、あとで調べてみたところ、「死」に関連する花言葉を持つのはスギではなくイトスギで(スギの花言葉は「雄大」や「堅実」らしいです)、こうして冷静に検証してみれば、ムツゴロウ先生のやり口はそれなりに粗が目立ちます。残念ながらスピリチュアル的な収穫は皆無と言うしかないでしょう。

 いっそ、このツラい花粉症の原因が本当に前世にあって、祈りを捧げることで解決できるならどんなによかったか──。あれから数年を経たいまも、鼻先がむず痒くなるたびにこの一件を思い出す僕なのでした。

(つづく)
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友清 哲(ともきよ・さとし)

1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。