スピリチュアル探偵 第12回

スピリチュアル探偵 第12回
花粉症で体調不良の探偵、
そこには霊的な原因があった!?

長い待ち時間に僕の警戒心はMAXに……

 その日は朝から気持ちのいい晴天。ということは、花粉も容赦なく飛散しているわけで、僕は当時売り出されたばかりで話題になっていたスプレー噴霧式のマスクを念入りに目鼻に噴きかけて家を出ました。

 目指す喫茶店は、都内にしては鄙びた雰囲気が漂う商店街を抜けた先にありました。スマホに目を落とすと、約束の時刻の10分前。ドアベルが鳴るタイプの扉をくぐって店内へ入ります。

 それらしき人物を探してキョロキョロしていると、ウエイトレスのおばちゃんが「あ、占いのお客さんかしら?」と声をかけてくれました。

「奥のテーブル席に先生いらしてるけど、まだ前のお客さんがいらっしゃるのよ。よかったらここでお待ちになって」

 そうおばちゃんに促され、ひとまずカウンターに腰を下ろす僕。店内には常連らしき壮年の客が数名いて、世間話をしたり新聞を読んだりしています。「占いの客」と言われたのがいささか引っかかりましたが、公衆の面前で「霊能者の客」などと言われるよりはマシなのかも。

 とりあえずホットコーヒーをオーダーし、花粉症でひりつく目元をおしぼりで拭い、待つことおよそ10分。約束の時刻になっても、声がかかる様子はありません。一方で、待たされている僕に対する気遣いなのか、おばちゃんがやたら話しかけてきます。

「今日はどちらから?」とか「お仕事は何を?」とか「ご家族はいらっしゃるの?」とか、世間話にしては妙にパーソナルな情報に踏み込んでくるので、僕は警戒心のギアを上げました。

 もしかすると、このあと対面する先生とおばちゃんはグルかもしれない。それとなく僕から引き出した情報を裏で共有し、さもお見通しな雰囲気を出されるのではたまったものではありません。

 僕は無愛想にならない程度に言葉数を抑え、「今日はたまたまこの辺をぶらぶらしてたんですよ~」とか「メディア関係の仕事です」とか「(バツは隠して)独身なんです」などと、極力データを与えないよう努めながらその場をやり過ごしました。

「あなたいま、けっこうマズいことになってるよ」

 ようやく奥から先生が出てきたのは、それからさらに15分後のこと。

「いやあ、お待たせしちゃってすいませんね」

 柔和な笑顔で頭を下げるその先生は、年の頃でいえばアラ還くらい。べっ甲のメガネに白髪交じりのオールバックが特徴で、なんだかムツゴロウさんにそっくりです(笑うととくによく似てる)。

 その先生の脇をすり抜けるようにして、若い女性が「ありがとうございました」と足早に去って行きました。僕の前のお客さんでしょう。

「さてさて、では奥のテーブルへどうぞ」

 まるで自分の店のように振る舞うムツゴロウさん似の先生。店の奥には半個室の4名席があり、着席するとすぐに先ほどのおばちゃんがお冷を持ってきてくれました。

 まずは用紙に名前や住所、生年月日、血液型、職業、家族構成などを記入するように言われ、書いている間に料金についての説明がありました。ムツゴロウ先生いわく、60分で2万5000円が正規価格ながら、「随分お待たせしちゃったから、時間についてはあまり気にしないで」とのこと。笑みを絶やすことがなく、人の好さが滲み出ている印象です。

 正直なところ、あの苦手な先輩編集者の知人であることを理由に、もっと胡散臭い人物が出てくるのを覚悟していたのですが、その意味では拍子抜け。しかし、この柔和な笑顔が"羊の皮"であることを思い知るのは、それから間もなくのことでした。

 最初に口火を切ったのはムツゴロウ先生で、「何かお悩み事がありますか」と、聞きたいテーマを求められました。そこで僕は、「では、仕事のことからお聞きしたいです」と、いつもの質問を投げてみることに。

「お仕事は文筆業と書いてあるけど、具体的にはどういうお仕事なの?」
「いわゆるフリーライターです。編集者でもあるので、自分の原稿を書いたり人の原稿を編集したり、半々ですね」
「ははあ。それはどういう記事? 雑誌?」
「雑誌も書籍もウェブも、基本的には何でもやってます」

 ムツゴロウ先生にとってライター稼業は未知の領域らしく、しばし細かい質問が続きます。僕の仕事内容や生活サイクル、得意ジャンルなどをざっと理解させたところで、こちらとしてはようやく本題です。

「そんなわけで、この仕事をかれこれ十数年(当時)やっているんですが、僕はこのまま今の仕事を続けていても大丈夫でしょうか?」

 これは僕が霊能者相手に必ず尋ねるテンプレ的な質問の1つ。いわば第1ラウンドに必ず繰り出すジャブのようなもので、この反応で相手を定点観測するようにしています。

 すると、ムツゴロウ先生は柔和な笑顔を崩さないまま、こう言いました。

「いや、ダメだね。あなたいま、けっこうマズいことになってるよ。調子がいいのも、長くてあと1年じゃないかな」

前記事
友清 哲(ともきよ・さとし)

1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。