滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第2話 星に願いを②

滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~--02
いつもいっしょにいたジュリアとモニカとわたし。
あるときジュリアにのっぴきならない事情が生じて!?

 が、3年前にのっぴきならない事情がジュリアに生じて、そのきれいな正三角形が崩れていった。そののっぴきならない事情というのは、ジュリアの彼氏の幸太(こうた)に関することで、幸太のことを最初に教えてくれたのは、モニカだった。

「ジュリアに彼ができたんだけど、ゴーストバスターなんだよ」モニカは言った。「冗談じゃないの、ほんとなのよ。彼はゴーストバスターなのよ」

 レイ・パーカー・ジュニアのやけに元気で楽しいメロディーと、超心理学者を演じるビル・マーレイが幽霊退治に走り回る姿が頭の中を過(よぎ)った。それまで世の中にゴーストバスターという職業が実在するとは知らなかった、が、幸太は、正真正銘、3世代目の日本のゴーストバスターなのだった。

 後日、ジュリアから聞いたのだが、ジュリアが幸太と会ったのは縁日で、彼は占いブースを開いていた。ジュリアは、占いやらおまじないやらのたぐいが大好きだから、たぶん、幸太に占ってもらったのだろう。占いをきっかけに付き合うようになり、やがて幸太はジュリアのマンションにころがり込み、いっしょに住むようになった。ジュリアといっしょにアメリカに来たことも何度かあって、幸太と会ったモニカは、

「彼はいっぺんに1ダースの卵を食べたのよ」

 とか、

「彼は、オレンジジュースを1パイント一気に飲んだのよ」

 とか言った。感心しているのか呆(あき)れているのか、よくわからない言い方だった。

 大食漢のゴーストバスター。申し訳ないが、「大食漢の」という枕詞(まくらことば)付きのゴーストバスターなどという怪しい職業を持つ幸太は、ジュリアみたいに非論理的で非合理的な人なのだろうと思っていた。なにしろ、あのジュリアが選んだ彼なのだ、世の中の半分の人が亡霊だと信じているジュリアが。

 が、会ってもいないうちに職業で人を決め付けるなんて、言語道断である。そんなの、肌の色で人を決めつけるのと同じだ。実際、幸太は、思い描いていた人と、ぜんぜん違った。

 幸太と初めて会ったのは、ある麗(うら)らかな春の日のことだった。隅田川(すみだがわ)のお花見クルーズをしようという幸太の提案で、ジュリアと幸太の2人と浅草で落ち合った。

 幸太は、話に聞いた通り、力士のようにでかい人だった。背も高いけれど、体重も100キロは軽くあると思う。のしのし、と四股を踏むような感じで、ジュリアの後ろに現れた。

 わたしたちは、挨拶を交わすと、さっそく吾妻橋から屋形船に乗った。ぽかぽかとした陽気に浸ってのんびりと屋形船で川を下っていくうちに睡魔に襲われ、ジュリアと幸太とわたしは3人ともども、船中で突っ伏して深い眠りに陥った。春眠暁を覚えず、せっかく桜を愛(め)でるところが、起きたのは、というか、起こされたのは、再び吾妻橋に戻り、乗客が船からぞろぞろと下りていたときで、桜も見ずにお花見クルーズが終わってしまっていた。わたしたちはもそもそと立ち上がると、浅草を夢遊病者のようにさまよった。

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桐江キミコ(きりえ・きみこ)

米国ニューヨーク在住。上智大学卒業後、イエール大学・コロンビア大学の各大学院で学ぶ。著書に、小説集『お月さん』(小学館文庫)、エッセイ集『おしりのまつげ』(リトルモア)などがある。現在は、百年前に北米に移民した親戚と出会ったことから、日系人の本を執筆中。