滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第3話 マネー・ア・ラ・モード④

滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第3話 マネー・ア・ラ・モード③
「ペーパーの上ではパーフェクトなのよ」
70歳ほどの男と付き合うジェンナ。
ずるずると関係を先延ばしにした結果は?

 ジェンナは、ディーンとインテリ向けの雑誌のパーソナル欄で知り合った。6、7年前のことだ。いや、もう10年近くになるかもしれない。

 当初、ジェンナは、「ほとんどわたしと背丈が変わらない」とか「もっとクリエイティブな答えが欲しい」とか言いながら、「でも、あの年には見えないし」とか(ディーンは70に手が届くか届いたかという年齢だった)、「一流大学を出ていて、コネチカットに家があって、マンハッタンにマンションがあって」とか言い、締めくくりに「ペーパーの上ではパーフェクトなのよ」と自分に言い聞かせるように言っていた。迷ってはいたものの、「紙の上ではパーフェクト」というのがやっぱり決め手になったのだろう、彼女はディーンと付き合い始め、ウィークエンドをサウザンプトンのサマーハウスで過ごし、長い休暇をカリブやヨーロッパで過ごすようになった。そして、ジェンナは急速に疎遠になっていった。最後に会ったのがジェンナが本格的にディーンと付き合い始める前のことだから、少なくとももう6、7年はたっている。ジェンナの近況は、ロスに住んでいるフィリップ、もしくは、サンフランシスコにいるブライアンがニューヨークに来るときに伝え聞いて知るだけだ。ジェンナとは20ブロックしか離れていないのに、西海岸に住んでいる2人からうわさ話を聞くなんて、変といえば変な話だけれど。

 フィリップによると、ディーンは、「別に自家用機を所有しているわけでないからそんなにリッチでもない」ということだが、でも、複数の不動産を持っているし、旅行へ行くときはファーストクラスで飛んで5つ星の超豪華ホテルのスィートルームに泊まり、映画産業にも投資してカンヌの映画祭に招待されたりもするから、リッチであることには違いない。ジェンナは、ディーンの豊かなフトコロ事情の恩恵を受けて、豪華な海外旅行や一流レストランでの飲食、高級ブティックでのショッピングを楽しむようになった。ディーンは、高級エステサロンに1万ドルの口座を設けて、いつでもジェンナが行けるように手配したり、作家志望のジェンナにリポートを書かせて法外な礼金を支払ったり、ジェンナが1年間休職して執筆に打ち込んだとき、サウザンプトンのサマーハウスを開放して生活費の面倒を見たりしたそうだ。しかも、彼女の兄弟や友人まで、そして兄弟の友人まで、豪華なディナーやサウザンプトンのウィークエンド招待の恩恵を受けてきた。フィリップは、ニューヨークに来るたびにディーンに手厚くもてなされていたし、カンヌの映画祭にディーンとジェンナが行くことになったときは、ディーンの知り合いの大富豪の所有する自家用機に便乗し、カンヌでの滞在はディーンにまかなってもらおうと働きかけたことだってあった。そのとき、フィリップが「富豪の周りにはおこぼれにあずかろうとする連中が取り巻いているんだ」ともらしたのを、今でも新鮮に覚えている。

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桐江キミコ(きりえ・きみこ)

米国ニューヨーク在住。上智大学卒業後、イエール大学・コロンビア大学の各大学院で学ぶ。著書に、小説集『お月さん』(小学館文庫)、エッセイ集『おしりのまつげ』(リトルモア)などがある。現在は、百年前に北米に移民した親戚と出会ったことから、日系人の本を執筆中。