◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第32回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第32回
第二章──窒息 08
被疑者の頭のなかにある情報を、できるだけ早く正確に聞き出すために──。

 増山は非常に重要な話をしている。志鶴はきちんとメモに残した。

「だから……行ってない、って答えちゃったんだよね。噓ついた俺も悪かったのかもしれないけど──ビビるじゃん。二人目に殺された子が、星栄中のソフトボール部って知ったときは俺だってびっくりしたよ。でもそんなの偶然じゃん。まさか警察で、試合観(み)に行ったかなんて訊かれるとは思わないし。パニクってつい、行ってないって──」

 助けを求めるようにこちらを見たので、志鶴は黙ってうなずいた。

「そしたら、刑事が、パソコンでビデオ映像を見せてきた。ソフトボールの試合の録画で……俺、撮られてた」

 増山のこめかみの辺りに、汗の粒が浮かんでいるのが見えた。

「警察も汚えよな。証拠あるんだったら、隠さず最初から言ってくれって。さすがにあれ見せられたら、否定できないじゃん。認めるしかないって。だから、すみません、本当は行きました、って答えたら、今度は、『なぜ噓ついたの』、ってしつこく訊かれはじめた。『何か後ろめたいことがあるんじゃないの?』って。いやそうじゃなくて、つい……って答えても納得してくれないし、そのうち『他にも隠してることがあるんでしょ?』とか言ってくるし。だんだんこっちも、否定し続けるの、疲れてくるじゃん。どんだけ違うって言っても信じてくれないんだから、本当のこと言っても無駄だっていう気持ちになって。そのうち刑事が、『知ってたんだよね、絵里香さんのこと?』って言ったとき、うなずいちまった。すぐに打ち消そうとしたけど、もう聞いてくれなくて……だんだんこっちもめんどくさくなって、『死体、捨てたのあなただよね?』って質問にも、はい、って言っちゃった──」

 大きく息を吐いた。

「どうしよう……俺、やってないのに」目が潤んでいる。顔を上げた。「俺──どうしたらいい?」

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里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。