◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第23回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第23回
第一章──自白 18
ニュース番組の録画をチェックする志鶴。問題のビデオ映像が映し出され……。

 志鶴は、自分のデスクにバッグを置くと、ノートパソコンと筆記具を持ってテレビのある会議室の一つへ向かった。森元逸美に頼んでおいたワイドショーとニュース番組の録画をチェックする。事件に関係する部分だけをピックアップした。

 最初のニュースで、増山淳彦が綿貫絵里香が出場したソフトボールの試合で目撃されたことが報じられていた。

『本日、綿貫絵里香さんの死体遺棄の疑いで逮捕された増山淳彦容疑者が、遺体が発見される十日ほど前、絵里香さんが出場していたソフトボールの試合で目撃されていたことが、警視庁の発表でわかりました』

 夕方六時台のニュース。女性アナウンサーが真剣な顔でカメラに目線をよこす。テロップが情報を補強し、画面が切り替わる。

 ビデオカメラの映像をアップにしたものらしい。左下に日付と時刻を示すカウンターが表示されているようだが、ぼかし処理が施されている。手前に土のグラウンド、奥にフェンスが映っている。グラウンドは校庭のようだ。映像は、ソフトボールの試合を、ホームベースの右斜め後ろの位置から、おそらくは三脚を使用して撮影したものだった。

 ユニフォーム姿──半袖、短パン、膝上までのソックス──でグローブをつけた、女子らしき人影が映っている。守備に就いているピッチャー、セカンド、レフト、ショート、センター、サード、キャッチャー。それに、右打席に立って構えている相手チームのバッター。彼女たちの顔と、チーム名が記されているとおぼしい、ユニフォームの胸の部分にはぼかしが入っている。

『この映像は、絵里香さんが通っていた中学校で行われた、ソフトボール部の対外試合を録画したものです』

 アナウンサーの説明が映像にかぶる。

 マウンドのピッチャーがボールを投げ、バッターがスイングした。バットに当たったボールが三塁方向へ飛んだ。音声はミュートされている。

 カメラアングルが切り替わる。

 今度は、一塁とホームの間からグラウンドを映す位置だ。三塁へ飛んだボールを、サードが捕球して、一塁へ投げる。バッターが一塁へ達する前に、ファーストがベースを踏んだままキャッチした。バッターは一塁の手前で足を止める。手持ちカメラらしく、映像にはブレがあった。ソフトボールの試合は、少なくとも二台のカメラで撮影され、編集されていたようだ。

 ここで、手持ちカメラの映像だけが、リピート再生される。

 このカメラからは、三塁側のファウルラインに沿ったフェンスがほぼ正面に見えている。ホームの右斜め後ろにあったカメラでは見えなかった、ホーム寄りのフェンスの外が映し出されていた。

 校庭の向こうはどうやら二車線の道路らしく、すぐ背後にビルやマンションが建っているのが見える。コインパーキングの看板も。その手前、画面右手に、フェンスに寄せる形で白いバンが停まっている。バンの前方二メートルほどの位置に、スクーターの傍らに立っている人影が見えた。

 ズーム。元の映像がズームしているのではなく、その人影を大きく見せるため、トリミングしているような処理だ。映像はいくらか粗くなったが、それでも、その人物の容姿はメッシュフェンス越しにも判別できないわけではなかった。スクーターの傍らで、グラウンドの方を見て煙草を喫(す)っているのは、志鶴の依頼人である増山淳彦だった。

 左手の指に煙草を挟み、右手はパンツのポケットに突っ込んでグラウンドを凝視している。

『フェンスの外に立っているこの人物が増山容疑者であり、捜査員が確認したところ、増山容疑者本人も認めているということです』

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里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。