ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第31回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第31回

コロナウィルスの影響で、
漫画が絶滅するということはなさそうだ。
だが、自分が作家として終わることは十分にある。

特に、漫画のようなエンタメ業というのは、衣食住足りてからやっと必要とされるものである。
世の中が「それどころじゃない」となったら、真っ先に切り捨てられるものである。
絵なんか描かずに、その紙を柔らかく揉んでケツを拭くのに使うべきだと言われれば、確かにその通りである。

だが、ケツにウンコがついていても人の心は荒むが、全く娯楽がないというのも人の心を蝕むのだ。

少し前に防災士の人の話を聞きに行ったのだが、避難所に子どもがぬいぐるみやゲーム機を持って行くのを止めてはダメだと言う。
全く気を紛らわすものがないと、辛い避難生活を乗り切れず、今後にも影響してしまうという。

もちろん、ケツを拭く方が優先ではあるが、そこまで逼迫していない状態で「そんなことをしている場合」と過剰な自粛を強要することにより、心の方が折れて逆に復興が遅くなるということもあるのだ。

米の一粒も生み出さない職業ではあるが、米を作る人の気力になり得るのが娯楽なので、軽視しすぎもよくない。

特に、絵というのは、紙とペンどころか、地面と指、もしくは壁と血があれば出来る。オナニーに並ぶ娯楽の最古株の1つである。

様々な新しいエンタメが生まれ、オワコンと言われることが多くなった漫画だが、逆に言えば明日世界がマッドマックスしても、絵や物語は作れるはずである。あの世界でyoutubeとかは若干厳しいはずだ。

どれだけ風俗業界が発達してもテレクラが滅びないように、漫画というのもこれからどんどん下火になるかもしれないが、絶滅ということはないような気がする。
ただ、漫画が終わらなくても、自分が作家として終わることは十分にある。

そんなわけで、3月下旬にイベントが全部消えた単行本が、2兆%他社から発売するので何卒よろしく頼む。

ハクマン31回

(つづく)
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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『北前船用心棒 ◆ 赤穂ノ湊 犬侍見参』赤神 諒
吉田伸之『シリーズ三都 江戸巻』/さまざまな角度から江戸の発展を探る