ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第24回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第24回

漫画家になって10年たったが、
出版社主催の漫画家の集いに行ったことがない。

ともかく、担当は私に構っている時間はないだろうから、必然的に一人になるに決まっている。
誰しも「彼氏に彼氏以外誰も知り合いがいないBBQに連れていかれ、彼氏は友達と話してばかりで完全に孤立」というような経験を1回ぐらいしたことがあるのではないか。
そんな状況で食う肉が果たして美味いだろうか。何を食っても、砂糖が入ってない黄な粉だろう。

私が忘年会に行くと確実にその状態になる。ローストビーフも「輪ゴム噛んでた方がマシ」という味しかしないはずだ。

よって私が忘年会を楽しもうと思ったら、釣りジャンで現れ、ポケットというポケットに寿司やウナギを詰め込んで、早々に退場し、家に帰って食う以外ありえない。

だったら最初から、部屋で一人、俺たちの「THE BIG」で買った1キロ198円のパスタに2食165円のペペロソチーノを贅沢にも1食に2食分使用し「これは罰が当たるな…」と思いながら、ソシャゲの周回をしながら食った方が、よほど幸福である。

そもそも飯は一人で食いたい方なのだ。
「ミスマガジンで女体盛りやるから食いに来いよ」と誘われても「女体と目があったらどういう顔をしたらいいんだ」「笑えばいいと思うよ」という一人小芝居がはじまって全然楽しめない。
どれだけ料理が豪華でも、知らない人が大勢いる場所で立って食う飯が美味いはずがないのである。

逆に忘年会で知り合いを作ればよいではないか、と思うかもしれないが、そんな社交性があったら作家になってない。
漫画家同士なら仲良くなりやすいだろう、と思うかもしれないがそんなことはないのだ。

私は、平素漫画をほぼ読まないので、どれだけ有名な作品でもほとんど「読んだことない」なのである。

そんな状況で「○○を描いている××先生です」などと紹介されたら地獄である。
そして、相手も確実に私の作品を読んだことがないだろう。
よって、話がはずむどころか「出会って4秒で天気の話しかできない関係」が爆誕してしまう。
不用意に漫画の話をすると「相手の作品を読んだことがない」ということがバレてしまい、気まずい、まさに先に動いた方が死ぬ世界だ。

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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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