ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第20回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第20回
他の作家の絵を見るたびに、
「もっと昔に勉強をしとけばよかった」と思う。
だが地方には漫画家になる勉強をする場所がない。

 他の作家は絵が上手い。

 もはや漫画は滅多に読まないのだが、たまに家にある漫画雑誌をめくると、どのページを開いても絵が上手い、打率9割9分9厘である。
 運悪く、私のページになった場合のみ「1厘」だ。

 もはや、上手い下手を通りこして私の絵は「弱い」気がしてならない。
 私のページだけ印刷が薄いか透過度75パーぐらいに設定されてんじゃないかと思う。目次の方がまだ「濃い」。

 それを見る度に「もっと昔に漫画の勉強をしとけばよかった」と思う。

 これは漫画家に限らず、多くのボンクラ中年が一度は「学生時代もっと勉強しとけばよかった、あの時に戻りたい」と思ったことがあるだろう。

 何故「あの時」に戻れれば勉強すると思っているのか謎である。
 戻ったところでマーク・ザッカーバーグになるわけではなく、ボンクラ中年からボンクラ学生にマイナーチェンジするだけだ、勉強するわけがない。

 大体「昔に戻れたなら」という無茶な過程をする時点でやる気がない。本当に勉強をする気があるなら今からでもやれば良いのだ。

 だがそもそも「漫画は勉強するものではない」とよく言う。
 言っているのは大体、漫画専門学校などに行ってない漫画家であり「専門学校に行かず漫画家になった」以外漫画家としての実績がない奴である、例を挙げると私だ。

 確かにストーリーに関しては最終的にはアイディア勝負の世界なので習うものではないし、絵に関しても勉強ではなく、どれだけ実際描いたかが物を言う世界だ。

 しかし、どれだけ練習しても「手を使ってはいけない」というルールを知らないままで、サッカーが上達することはないだろう。
 漫画だって、基礎や技法を習った方が効率良く上手くなれるはずだ。

 実は言うと全く学校で習っていないわけではない。
 一応、グラフィックデザイン系の専門学校を卒業している。
 しかし、専門学校というのは基本的に金を払えば入学できるシステムである。よって学生のモチベーションの差が激しい。
 本当にクリエイターになる気で来ている者もいれば「大学受験をせずに1秒でも社会にでるのを遅らせに来ました」という感じの奴も多い。

 ちなみに私は、志は前者で、行動が後者という、一番周囲を苛立たせる奴だった。

 本当は漫画の専門学校に行きたかったのだが、当時我が県内に漫画の学校は一件もなかったのである。 よって「デザインも似たようなものだ」という雑な感覚でその学校に入った。

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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。