ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第14回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第14回

「漫画というのは唯一、親の七光り、
コネ、ヤクザのいない世界だ」
風貌が完全にヤクザな編集長が教えてくれた。

先日「姪が漫画家になるために高校を辞めたが、応援できない」とのツイートが話題になり、様々な意見が寄せられた。

意見内容は「卒業してからでも良いのに辞める意味がわからない」「後悔することになる」「むしろ高校生活などの『経験』を積まずに面白い漫画が描けるはずがない」等、否定的なものが多かったように思えた。

確かに、漫画家に限らず、人生のパイセンなら何か一言「小生の意見としましては…」をやりたくなってしまう案件ではある。

だがこれは罠である、私は詳しいんだ。

何故ならこの元JKが「ハチャメチャなサクセス」をする可能性がゼロではないからである。

最近、年功序列や終身雇用崩壊のニュースが世間を賑わせているが、漫画家は漫画家という職業が誕生した時点でそんなものは崩壊しているので、今更何を驚いているのだという感じだ。

特に年功序列の無視っぷりはすごい。何十年やってもヒットが出せないこともあるし、逆に、新人のデビュー作が大ヒットというのも珍しいことではないのだ。

私がデビューした時、雑誌の編集長がこう言っていた。「漫画というのは唯一、親の七光り、コネ、ヤクザのいない世界だ」と。

タピオカ界にもいるヤクザが漫画にはいない、というのも不思議な話であり、そう言っていた編集長の風貌が完全にヤクザだったのだが、確かに他の業界に比べれば、後ろ盾が関係ない世界ではあるだろう。

つまりこれらが関係ないということは「学歴」なんてもっと関係ないはずなのである。
「高校での経験が漫画に生きる」という意見もあったが、私も一応高校は卒業している。しかし、高校でしていたことと言えば、小遣いが2000円しかないのに、1000円近くするアンジェリークラブラブ通信を買って、電車で堂々と読んでいたぐらいだ。

ちなみに、高校時代に異性と話した回数は「2回」である、しかもその内の1回は「脳内が作り出した嘘の記憶説」が最近浮上してきた。

つまり、高校生の青春ラブストーリーを描けと言われたら「想像」で描くしかない、高校を卒業しただけ、などという経験は無意味である。

大体漫画というのは実体験を元に描いている方がレアであり、経験してないことを想像で描いている場合の方が多い。もしコナンや金田一の作者が「実体験で書いている」と言ったらそれ自体が事件だ。

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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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