ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第10回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第10回

職業を尋ねて、
相手が「漫画家です」と答えて来た時は、
瞬時に話題を変えるべきである。

また漫画家は漫画家と周囲に知られると、「じゃあ広報誌のイラスト描いて」などと言われることがあるという。
そう言われて「『いらすとやさん』でググれ、カス」と言える強いハートを持った人間はなかなかいない。

しかもそれを言ってくる時、相手の辞書に「有料」という言葉がある場合は稀である。
万が一相手が「料金の方は…」と言ってきても、近所の人という手前、自ら「無料でいいっすよ」と言ってしまうこともあるだろう。

相手からすれば、漫画家をやっているということは絵を描くのが大好きなので「絵を描いてくれ」と頼まれるのは嬉しいことに違いないだろうと「よかれ」と思って言っている場合があるのがまた頭の痛いところなのだ。
少なくとも私は、推しキャラの斜め45度バストアップの絵を描くこと以外は全然好きじゃない。

他には「これネタに使ってくださいよ」「話考えるんで漫画描いてください」と軽く言われるパターンもあるそうだ。

職業を名乗っただけで、これだけ面倒事が起こる可能性があると思ったら、答えた瞬間話題が政治や野球に変わる「無職」と名乗りたくなるのも当然である。

もし、周囲に漫画家がいても、好きなことを仕事にして、毎日楽しい人、などとは思わずに、サラリーマンと同じように、嫌だけど生活のためにイヤイヤ毎日絵を描いている可哀想な人、ぐらいに思うほうが良いだろう。

ハクマン

(つづく)
次記事

前記事

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◇自著を語る◇ 和田はつ子『口中医桂助事件帖 さくら坂の未来へ』
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第7話 カゲロウの口⑤