ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第1回

ハクマン 部屋と締切と私 第1回
何故マンガ家になってしまったのか

 


誰も私のことを知らないと思うので最初に自己紹介をさせてもらいたい。
名前は「カレー沢薫」職業は無職、あとこれは本名だ。

無職だが副業として漫画を描いたりこのような文章を書いているので担当からは「バクマン。みたいなエッセイにしてくれ」と言われている。
「バクマン。」とは週刊少年ジャンプで連載されていた漫画で、漫画家を志す少年2人が、紆余曲折をしながらも漫画家としてサクセスしていく物語である。
私も全部読んだわけではないが、確か最後は作品がアニメ化し、ヒロインとキスして終わったような気がする。
残念ながら、このエッセイはアニメ化という終わり方はしないと思う。だからせめて誰か私とキスしてほしい、もうロバとかでもいい。

このままでは第1回目にして、動物愛護団体からの抗議で打ち切りになってしまうのでこのぐらいにしておくが、個人的には不人気で終わるより抗議とかで終わった方が自我が守られて良い。
そして始まったばかりで悪いが、正直漫画家としてはメチャクチャ限界を感じている。

私は漫画家としては10年目、つまりあと1年で10周年になるのだが、まあ売れてない。
逆に全く売れてないのに9年間何らか仕事を与える奴がいたことがすごいのだが、そいつらもそろそろ「あっコイツ売れてねえ」と気づくはずだ。

まだ気づいてないなら完全なやぶ蛇だが、10周年を待たずに、漫画の仕事がなくなり漫画家と名乗れなくなっている可能性は大いにある。
だから私は現在すでに「無職」と名乗るようにしているのだ。何事も先手を打つことが大切である。逮捕された時だって「無職」より「自称:漫画家」の方がもっと刑を重くしろと思われてしまうだろう。

出版不況により、本の売り上げは伸び悩み雑誌の休刊も相次ぎ「漫画はもうオワコン」という話も良く聞かれるようになった。そんな終わっているかもしれない業界でさらに終わっている、というSEKAIGAOWARISUGI状態なのだが、逆に今だから私のような作家が今まで生きて来られたような気がする。

昔だと漫画家は、限られた漫画雑誌の限られた連載枠を奪い合うしかなかった、今でもそういう世界観だったら、私は3か月目ぐらいで「お前の席ねーから!」になっていたと思う。
しかし、今はインターネットがある。つまり掲載枠だけなら、弊社HPはジオシティーズの無料の奴を使っています、というのでなければ無尽蔵と言って良い。
これは座る席が多く用意されているというだけではなく、懐に余裕があるとつい無駄遣いしてしまうのと同じように、枠が無限にあると思うと油断して座らせちゃいけない奴を座らせちゃったりするのだ。

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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。