辛酸なめ子「電車のおじさん」第7回

辛酸なめ子「電車のおじさん」第7回
ふと、電車のおじさんの姿が頭をよぎる。
おじさんは、このままいけば平和にこの世を去り
……ってなんて不吉な想像しているんだろう私。

「聞いてよ、この前お父さんが倒れて救急車を呼んだり大変だったの」

 玉恵は久しぶりに高校時代の同級生、茜を呼び出して近況を聞いてもらいました。前にLINEグループで男性の甲斐性について質問した中の、一番仲が良い(と玉恵は思っている)、小さい広告関係の会社で働いている女友達です。

「お父さんが世間体を気にして、マンションの近くに来たらサイレンを消してほしいとかあれこれ指示してきて、それをいちいち救急隊員に伝えたりして。具合がすごい悪いと言いながら、家の中で座って待ってるから、もっと重症っぽく横たわってたほうがいいんじゃない? って思ったんだけど。救急隊員に、すみません、そんなに重症じゃなくてって言ったら『もっと元気な人もいっぱいいるから大丈夫ですよ』って。あ、救急隊員けっこうかっこよかった」

「症状そこまで重くなくてよかったね。この前『警察24時』系の番組を見てたら、何か薬の中毒の男性が気軽に救急車呼んだりしてた。お父さん大丈夫だった?」

「いろいろ検査したんだけど特に原因がわからなくて、腐りかけのものでも食べたんじゃない? ってことになって。人騒がせだよね」

「人騒がせといえば、私も最近大変だったの。会社がバタバタで」

 と、茜は深刻な表情で話しだしました。

「どうしたの?」

「実は、社長が急死して……」

「えっ?」

「全然元気だったんだよ。まだ60歳で若かったのに、心臓発作だって。信じられない。副社長が社長になったんだけど、社長と仲良かったから最初は泣いてて、あいつは素晴らしい男だった、って言ってたんだけど、その後の事後処理が大変すぎて、1週間後には、あいつはひどいって怒ってた」

「ある意味、悲しみが忘れられて良かったのかも……」

 父の救急車どころではない深刻な話に、どうリアクションしていいのかわからないながら、玉恵は少しでもポジティブなことを言わなければと思いました。

「それはそうなんだけど、でも会社の株を社長の奥さんが売らないように副社長が説得したり、何も税金対策してなかったから相続税が大変なことになったり。くわしいことはわからないけど、会社の株にも相続税がかかるらしくて。新しい社長がなんとか工面してるんだけど、会社の経営がやばくなって社員まで経費節減させられてるの」

「税金って大変なんだ……。じゃあ今の日本で有名なIT社長とか亡くなったら、そのあと会社の存続の危機だね。若いから自分は死なないって思ってそうだけど」

「前澤社長みたいに生きているうちにお金を配りまくるのは賢いかも。感謝されるしね」

 と、最近の話題を出す茜。

「でもあれもどうなんだろう。人の心を弄んでる気がする。100万円当たったうちの一人が、パレスチナの子供の教育のために寄付すると言ってたのが、やっぱり自分のために使うって言って炎上してたよね」

 玉恵もこのニュースが密かに気になっていて、時々チェックしていました。

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辛酸なめ子(しんさん・なめこ)

1974年東京都生まれ。漫画家、コラムニスト、小説家。近著に『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』など。最新刊に『ヌルラン』がある。