問題作『国会議員基礎テスト』文庫化! 舛添要一氏による解説、全文公開!!

 


 解 説

舛添要一 

 

 解説の依頼が来る前に、私は本書を読んでいた。きっかけは、小学館の担当編集者が送ってくれたからだと記憶しているが、小説にもかかわらず『国会議員基礎テスト』という奇抜なタイトルと「政治家にも資格試験を!」という挑発的な惹句にひかれたのだった。 

 読みながら、国会議員の知的程度がどれくらいか、世間の人たちはよく分かっているなという感想を抱いたものである。選挙で当選すれば、誰でも国会議員になれる。私が、国会議員のときも、呆れかえるような議員がたくさんいた。 

 とくに閣僚になって、予算委員会などで答弁に立つと、あまりにも基礎知識を欠いた議員が放つ無意味な質問に対して、「もう少し勉強してから出てこい」と怒鳴りたくなることもあった。 

 同じ国会議員でも怒り心頭に発するのだから、優秀な頭脳の持ち主である官僚は、どれだけ失望しているだろうかと思った。役人が政治家に対して面従腹背となるのは無理もない。 

 第一次安倍改造内閣で、私は厚生労働大臣、官房長官は東大法学部の先輩である与謝野馨氏であった。東大法学部出身の政治家の集まりで、国会議員の中に政治や行政の基本的素養を欠いている者があまりにも多すぎるということが話題になったが、そのときに、与謝野氏は、「そういう馬鹿議員がいるから、優秀な我々が大臣になれるのだから文句を言うな」とたしなめたことを記憶している。 

 竹下元首相は、説明を理解しない国会議員について、私が不満を言うと、「それは知能指数の問題だわね」と苦笑していた。 

 国会議員として、また大臣として、そのような苦々しい思いをしてきた私は、基礎テストに合格しないと立候補できないようにしたほうが良いのではないかという本書の問題意識に、よくぞ書いてくれたと快哉を叫びたくなった。 

 

 2019年11月20日、安倍晋三首相は、故郷の先輩、桂太郎を抜いて憲政史上最長在任記録を達成した。しかし、二ヶ月前の9月11日に発足した第四次安倍第二次改造内閣では、わずか二ヶ月足らずに二人の閣僚が不祥事で辞任しており、長期政権の驕りが批判される状況であった。 

 このことに象徴されるように、政治家の質の劣化が問題となっている。本書の問題意識は、超難関の試験に合格しなければ公務員や裁判官にはなれないのに、なぜ政治家は何の試験も受けなくても国会議員になれるのかということである。立法、行政、司法の三権のうち、「国権の最高機関」である国会のメンバーのみが、試験はなく、選挙で選ばれさえすればよいという現状こそ、政治家の質の低下をもたらしていると思う者がいても不思議ではない。 

 物語は、「国会議員に立候補するには国会議員基礎テストにパスしなければならない」という考えを持つ橋本繁を主人公の一人にして展開する。橋本が秘書として仕える黒部優太郎は、三世議員のボンボンで、国会議員としての基礎的な知識を欠いている。親の七光りとルックスが幸いしての人気で当選している。この事態に橋本は危機感を抱いたのである。 

 本書は、エンターテインメント小説としても一級の面白さであり、登場人物が発する言葉は、実際に政治家の使った表現をそのまま借用するなど、フィクションでありながら現実とオーバーラップしてしまう皮肉な手法を採用している。 

 そして、著者は、実際の自民党政治の現場や国会運営などを実によく観察している。たとえば、自民党政務調査会の部会での議論、陳情に来る業界との関係、各委員会の運営など、正確に実情を記している。また、国会議員候補者がどのように選挙を戦うのかについても、実態に即して記述してある。 

 さらには、国会や選挙に関するルールについて説明してあり、本書は日本の政治を理解するための優れた教科書となっている。たとえば、衆議院議員選挙の小選挙区で敗退しても惜敗率で復活する仕組みなどについて、選挙の細則にまで言及している。