連載回数
第145回
著者名
蘇部健一さん
3行アオリ
小説の登場人物はストーリーを動かすための
記号であればいいと思っています。
私はキャラ立てよりも、
ストーリーに注力したいのです。
著者近影(写真)
sobusan
イントロ

読者の予想を超えるどんでん返しと、ユーモラスな作風で、「バカミス」ジャンルの代表格作家といわれる蘇部健一さん。最新作『小説X あなたをずっと、さがしてた』が、「驚愕すぎる結末」「ラストの1幕に拍手喝采!」など、Webでの先行公開から大きな話題となっています。三省堂書店の内田剛さんと小田急ブックメイツの狩野大樹さんが、ネタバレに厳重注意しながら、蘇部さんご自身との対談で、本作の魅力について迫りました。

インタビュー本文

ラスト1行のトリックから物語をつくる

内田……たびたび座談会にお伺いしていますが、『小説X あなたをずっと、さがしてた』は過去の作品のなかで最大級に、質問に注意しなくてはいけないと思いました。

狩野……僕も、気を使います。何を聞いても、ネタバレになってしまう可能性があります。

蘇部……そうかもしれないですね。ラストの仕掛けがばれてしまわないように、気をつけて話します。

内田……蘇部さんが「ラスト1行に、命を懸けました!!」と公言されているように、本当にあの1行で仰天しました。

狩野……内田さんと同じく、自分も驚きました。どこから騙されていたんだろう? って、終わってすぐ読み返しました。本作は、いつ構想されたのですか?

蘇部……おととしの始めぐらいに、メイントリックが、ぽっぽっと浮かびました。ラスト1行で明かされる「真犯人」の仕掛けですね。メジャーの小説では、滅多に見ないトリックだなと、自信がありました。しかし、このトリックを使う必然性のあるストーリーがなかなか思いつかなくて、1年半ほど話を練っていました。何といっても無茶なトリックなので、すんなりストーリーに溶けこませるのは難しい。一度、投げ出したりもしましたが、主人公の奈子と葵の設定ができて、話が進んでいきました。トリックありきの作品なので、話の途中ネタバレしないよう、だいぶ神経を使いました。

狩野……文芸書を担当させてもらっているなかで、たくさんミステリ小説も読みますが、この作品のトリックはラストまで、まったく予測できませんでした。

内田……蘇部さんの小説は、油断ならないんです。どこが伏線か? 全部なのか? と勘ぐりながら、いつも読み進めています。本作も「朝8時20分」「水曜日の朝」など、いくつかのワードが、何か意味があるんじゃないか? と、ドキドキしていました。そういった勘ぐりや先読みを、完全に超えていかれました。

蘇部……ばれなくて良かったです。

内田……「麻婆豆腐」だけは、何とか気づきました。これは何かあるぞと。

蘇部……おお、さすがです。「麻婆豆腐」は伏線のひとつになっていましたね。

狩野……この短めの文章量のなかで、巧みな伏線の張り方は、素晴らしいです。

蘇部……細かい部分で、ラストのトリックに収斂していく伏線を書いています。気づかれるかな? と少し心配でしたが、いまのところ読者の方には、ほとんど気づかれていなくて、ホッとしました。

狩野……気づくどころか、きれいにスルーして、普通に面白く読んでいました。

 

裕真の人物像がトリックを成功させた

蘇部……伏線がうまくいったと思うのは、"橋の上の彼"こと柏木裕真の人物設計です。 最初は、主人公・奈子と裕真が何度もばったりと会うことで、奈子が惹かれていく展開にしようと思っていましたが、偶然が多すぎて「真犯人」の意図が、読者にわかってしまうのではないかと不安になりました。そこで毎週決まった時間に、奈子と裕真が橋の上で、微妙にすれ違う展開にしたんです。すると裕真は何者? という、ミステリアスな感じが出ました。また奈子が展覧会で、彼の少年時代をモデルにした絵を見つけるのも、いい伏線でした。 あと後半、奈子は酔い潰れて、裕真の肩で寝てしまった出来事を、夢と思いこみました。現実ではないという勘違いが、「真犯人」の仕掛けの機能する伏線として、うまく生きました。

内田……すごい。緻密に計算されていたのですね。読み直す楽しみが増えました。

蘇部……でも一個、失敗したかもしれないのは、奈子と裕真が出会う橋です。本編では、朝霞台の水道橋と書いていますが、実際に現地に行ってみると、僕がイメージしていた雰囲気のいい橋は、別の橋でした。本物の水道橋は、ちょっと貧相な橋だったのです。この小説がベストセラーになって、聖地巡礼されるようになったら、読者のイメージを損なってしまうかも? と心配しています。

狩野……ここで明かしていただいたので、大丈夫だと思います。

内田……そういう小さなズレも、また魅力となるでしょう。

蘇部……一方で、水道橋の向こうには奈子が通いそうな、某大学の朝霞キャンパスが建っていました。本当に偶然。僕の想像した設定が現実にあったのは、何かのつながりを感じました。

 

キャラではなくストーリー至上主義

内田……本作はメイントリックにまつわるエピソード以外、ほとんど何も書かれていませんよね。だからこの面白さが出た、ともいえます。

蘇部……本当は人物のバックボーンをもっと書きこんで、キャラクターの厚みを加えなくちゃいけないんでしょうけれど、省いています。

狩野……余分な描写が削ぎ落とされた感じが、とても読みやすいです。短い文章量で読者を驚かせる効果を引き出していると思います。

蘇部……いや、単に自分の筆力不足だというのもあります。

内田……そんなことないですよ。スリムな内容で読者を引きこむ、強いストーリーの作品です。

蘇部……ストーリーが面白くあればいい、というのは常に考えています。私はデビュー前に、あるミステリ好きのサークルに入っていました。仲間内でそれぞれ好きな刑事・探偵を教えあうとき、みんなは古典や本格小説の探偵を言うなか、私は十津川省三警部(西村京太郎の人気シリーズ)を挙げました。そうしたらみんな、大爆笑したんです。ミステリマニアの間では、十津川警部を挙げるのは、まずありえないらしい。でも私は十津川警部シリーズが本当に面白くて、大好きだから、内心ショックでした。 私は、キャラ立てが上手い作家ではありません。けれど、私個人の意見ですが、小説の登場人物はストーリーを動かすための記号であればいいと思っています。例えば鈴宮ハルヒとか惣流・アスカ・ラングレーみたいな、可愛くてわがままな女性を描くと、一応キャラは立ちます。だけどストーリーの邪魔だと思うんです。もちろんキャラの立っている小説を否定するわけではないですし、面白いのもわかっています。またシリーズ作品の場合とか、キャラ立てが必要な事情もあるでしょう。ただ私はキャラ立てよりも、ストーリーに注力したいのです。まあ単純に、キャラを描けない言い訳でもあります。

内田……小説家のスタイルですよね。蘇部さんはキャラではなく、ストーリーで勝負されるタイプだという証でしょう。

狩野……ストーリーが面白い作家は、それだけで大変な強みだと思います。

蘇部……おふたりに言っていだけると、安心します。自分はあくまで、ストーリー至上主義です。話を面白くする工夫は尽くします。『小説X あなたをずっと、さがしてた』でラスト1行に命を懸けたり、過去の作品のようにラスト1ページをイラストで表現するのは、読者に面白がってもらいたいから。面白い小説なら何でもあり、というのが信条です。

 

ミステリ通に受けるよりも本が売れてほしい

きらら……本作はラスト1行に「真犯人」のトリックが凝縮されています。面白ければOKと考えたとしたうえでも、一部には反則だと評される心配も、多少はおありだったのでしょうか?

蘇部……ハードなミステリ好き、例えば『このミス』大賞に投票されるような人には、受けないだろうと自覚しています。何しろ『このミス』では、『慟哭』も『イニシエーション・ラブ』もベスト10に入っていませんでした。通のミステリファンにも受け入れられるといいなとは思いますが、私の作品は「バカミス」と呼ばれるジャンルに入っているので、難しいでしょう。

内田……いえいえ、スティーヴン・キングなど大御所の作品でもミステリのトリック自体は、ものすごい反則級の仕掛けもあります。それを面白く読ませてしまう筆力があればいいのです。

蘇部……私には筆力がないので、スピード感でごまかすしかありません。

狩野……そんなことないですよ。『小説X あなたをずっと、さがしてた』はコンパクトに読めて、ミステリのハードルが、いい意味で低く設定されています。これからミステリを読んでみたいという若い方のきっかけとなる作品として、たくさん読まれるでしょう。

蘇部……だと嬉しいですね。ミステリ通の読者に受けるより先に、切実に本が売れてほしいと思います。

きらら……本作はタイトル公募で1261通の応募があったり、Webでの先行公開では14,000人が読んだなど、さまざまな仕掛けで、発売直後から反響を呼んでいます。

蘇部……担当編集者が頑張って、いろいろ仕掛けてくれました。私の新刊で、こんなに出版社を挙げて動いてくださったことがないので、感激しています。

内田……うちの書店でも、かなりの冊数を仕入れました。これだけシンプルで面白いのだから、もっと売っていきたいと思います。

蘇部……本当にありがとうございます。書店さんに生原稿をお配りしたり、Twitterを使った告知など、私も販促に努めています。もうアルバイト生活に戻る気はないので、皆さまに一層、お力添えをいただけたら幸いです。 

(構成/浅野智哉)

 

著者サイン画像
sobusanhitokoto
蘇部健一(そぶ・けんいち)
著者プロフィール

1961年東京生まれ。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業。『六枚のとんかつ』で第3回メフィスト賞を受賞してデビュー。著作は『動かぬ証拠』『木乃伊男』『届かぬ想い』『赤い糸』『古い腕時計~きのう逢えたら』『まだ恋ははじまらない…』『運命しか信じない!』など。