妖? 怪奇もの? 不思議な世界を堪能できる本とそれを彩る表紙画

『ある小説家をめぐる一冊』(栗原ちひろ著)は、文学的で退廃的で美しい。
書店員名前
明正堂アトレ上野店(東京) 増山明子さん

ジンカン 宮内庁神祇鑑定人・九鬼隗一郎』(三田誠著)

 頑強な体躯の九鬼さんと就活に失敗した訳アリの勇作コンビが活躍する3話からなる連作短編。特殊文化財(トクブン)を鑑定し管理する。その中には魔術を施した骨董品などもあり九鬼と普段は大人しい勇作が意外な方法で回収する。個人的な読みどころは九鬼さんの描写。とにかくムキムキで美しくストイックな描写が読んでいて楽しい。1話目が体躯の描写、2話目が神主装束で目隠しをして……3話目はお弁当を食べる九鬼さん……。メンバーもみんな個性的だ。どこかにトクブンがあって今日も戦っているんだろうなと思ってしまうワクワクするお話。yocoさんの美しい表紙画が世界を広げる。

jinkan
講談社タイガ

 

ある小説家をめぐる一冊』(栗原ちひろ著)

 栗原先生の世界観はいつも大好きなのですが、この作品は文学的で退廃的で美しいと感じました。スランプ中の若い女性作家の担当になった背が高くイケメンな田中が作る朝ごはんの描写が美味しそうです。土鍋で炊くお米…なめこのお味噌汁……うっとり……。些々浦空野先生も超個性的で面白い。そしてファンタジーで少し不思議な世界。「書いたことが現実になる」ため執筆できない空野。そして不思議な出来事に巻き込まれていく田中。

 表紙画は栗原先生がデビューからタッグを組んでいるTHORES柴本さん。読後に表紙をみるとまた違う感動に包まれます。ビブリオ・ファンタジーです。

arushosetsuka
富士見L文庫

 

怪ほどき屋 からむ因果の糸車』(南澤径著)

 奈旬一郎と美人秘書の雪緒と素行不良霊能者・多賀宮善の3人が因果をほどいて謎を解決するオカルトミステリーです。雪緒は美人ですが山姥ですし(強い)、奈は謎が多くて変性意識で善に追体験させることができる霊能力者です。現在3冊出ております。この巻は2番目に発売されて3話からなる連作短編になっております。私は怖がりですがストーリーが怖くても3人がいるので読めます! 何かしらの理由がありそれをたどって解決するなんてなるほどと思いました。vientさんの素敵なイラストが目印です。

ayakashihodokiya
角川ホラー文庫

 

 今回は装丁も含めて妖しく美しい世界を堪能していただければと思います。

 

(「きらら」2018年4月号掲載)

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