◎編集者コラム◎ 『大沼ワルツ』谷村志穂

 ◎編集者コラム◎

『大沼ワルツ』谷村志穂


『大沼ワルツ』谷村志穂

「北海道の大沼に、奇跡のような大家族がいるんですよ」

 その大家族を取材してぜひ小説を書きたいと、著者が私に熱く語ったのはいまから7年前のことでした。

 大沼は、函館から車で40分ほど。秀峰駒ヶ岳の麓にいくつもの湖を湛える景勝地で、かつては日本新三景にも選ばれた場所。北海道開拓時代に開墾され、日本有数の観光地として栄えました。その開拓者の後裔として、小さな母・那須子は、大沼の地で自分たちらしく根を張ろうとしていました。そして第二次大戦後、魅力的な長身のイケメン三兄弟の息子たちのもとに、山梨のめんこい三姉妹が次々と自らの意志で嫁いできました。三兄弟と三姉妹が結婚した三夫婦。まさに奇跡のようなお話です。

 大家族は、木彫りの店や電器店を始めたり、海を渡ってやってくる若者たちのために、ユースホステルを立ち上げたりするのですが、そのたびに起こる様々な困難を、それこそ"ONE TEAM"の絆で乗り越えていきました。

 私も取材に何度も同行しましたが、すでに80代を迎えた三姉妹が、当時のことを話すときのキラキラとした表情、かっこいい旦那様を語るときのまるで少女に戻ったような話しぶりに、未知の土地に飛び込んでいったたくましさを感じ、まさに家族とは、夫婦とは何だろうということを改めて考えさせられました。

 取材は5年にも及び、著者は、この北海道絶景の地の、大家族と大恋愛の物語を、素晴らしい小説に紡ぎ上げました。

 タイトルの『大沼ワルツ』の意味が、那須子の死に際に明かされます。

 映画化もされベストセラーとなった『海猫』をはじめ、北海道を舞台に数々の小説を発表してきた著者渾身の長篇がいよいよ文庫に。どうぞ、お楽しみください。

──『大沼ワルツ』担当者より
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