◎編集者コラム◎

『提灯奉行 浅き夢みし』和久田正明


提灯奉行
二枚並んだ写真は、一枚が蓬田やすひろさんの原画。もう一枚は、山田満明さんがデザインしたカバーです。原画の、向かって右端に描かれている人物はお年寄りの今和泉ですが、カバーではカットされています。蓬田さんが快く了承してくださったお陰で、山田さんが存分に腕を振るい、時代小説文庫としては斬新なカバーが出来上がりました。


 昭和30年代、路地裏を駆けずり回っていた洟たれ小僧の関心は、大瀬康一演ずる月光仮面の運命にありました。放送は昭和33年(1968)2月24日から翌年7月5日まで。因みに少年サンデーと少年マガジンが競うように創刊されたのは、ともに昭和34年3月17日。それまで、『冒険王』など月刊漫画誌を愛読していた洟たれ小僧にとって、週刊誌というスタイルは驚きでした。週刊誌は大人が読む物でしたから。それにしても、週刊少年漫画誌2誌が同日創刊だったなんて、まったく印象になかった。うーん、両誌のライバル意識はまさに創刊時からということか。知らなかった。洟たれ小僧はサンデー派でしたが、それは毎週二冊も買う小遣いがないという切実な事情と、寺田ヒロオの『スポーツマン金太郎』が好きだった、それだけのことだったんですけどね。
 そうそう、月光仮面のことでしたね。さっそうと現われた月光仮面のおじさんが、鮮やかに悪者を懲らしめる。なんて痛快な! ここでまた脱線。いま気づきましたが、主題歌では、月光仮面のおじさん、と歌っていました。月光仮面が、おじさん、かい? いまの子供たちを魅了する戦隊もののキャラをおじさん呼ばわりはしないでしょう。当時、おじさんというのは、当今のように、どうも、自己を卑下したり、人さまを揶揄する筋合いのものではなかったということか。まあ、それはともかく、洟たれ小僧の心を鷲掴みにしたドラマは主人公の運命に随伴する喜び、それはシリーズ物が主力の書き下ろし時代小説文庫が読者の支持を得ている理由そのものでした。当然、主人公はいかに窮地に追い込まれようと、死ぬことは金輪際ない。ところが、シリーズ物の掟破りをする作家が現れた。われらが和久田先生ですが、本作で主人公の提灯奉行・白野弁蔵があろうことか、散華してしまう。読者にとって晴天の霹靂。しかし、著者には深謀遠慮があったんですね、読者の期待を裏切らない秘策が……。ヒントは、本作で早々に登場するお広敷番頭・名取又兵衛というキャラクターです。後は読んでのお楽しみですが、これまでの和久田作品からは想像できないコメディ・タッチ、恋あり、笑いあり、活劇あり、の新シリーズがこの冬、スタートすることになります。シリーズ完結篇に登場するキャラクターが新たなシリーズを生み出す。著者の新趣向にどうぞご期待ください。
 

──『提灯奉行 浅き夢みし』担当者より