◎編集者コラム◎ 『突きの鬼一 岩燕』鈴木英治

 ◎編集者コラム◎

『突きの鬼一 岩燕』鈴木英治


脱出老人

 5月刊『突きの鬼一 赤蜻』に続く2ケ月連続刊行第2弾にして、シリーズ第4作。前3作すべて発売後ひと月未満で重版がかかり、誠に順調な滑り出し。これもひとえに読者諸兄姉のご支援あってのこと、ここに深甚の謝意を表する次第であります。

 おっといけない。作者の飽くなき創作意欲と身を削るような執筆の日々に対する敬意の表明を失念していました。と、まあ、いささかお道化た物言いをしましたが、人様に、苦労した苦労したというのは、いささか気が引ける(でしょう、鈴木さん!?)。さはさりながら、著者は心底苦労したようで、この拙文の冒頭に掲載しました、疲れ切った表情の著者近影をご覧になれば、それは一目瞭然でありましょう。生誕の地にして、現在も住まいする静岡県沼津市の喫茶店で『岩燕』の最終著者校正を願い出た担当者に、めでたくも来年還暦を迎える作者は開口一番こう宣いました。

「ああ、疲れた。ホントに疲れた」

 それはそうでしょう。昨年8月のシリーズ開始時に2作同時刊行。3作目が遅すぎると、鬼のような担当者(以下、鬼担と表記)に尻を叩かれて、今度は5月6月の2ヶ月連続刊行と、無理難題をこなしたのですから。とはいえ、鬼担が作者に休養を提案すると思ったら大間違い。このまま、のんべんだらりと安易な日常に現を抜かすようでは、読者に申し訳が立ちません。こうなったら、なんとしても次作で鬼一シリーズを確固としたものにしたい。譬えれば、鬼一衛星を搭載したロケットは打ち上げ後、予定通り第2弾ロケットに点火されたということ。次に目指すは地球の周回軌道に乗ることです。

 悪玉の国家老・黒岩監物が放った忍びの者が潜む隠里は、このまま放っておくのか。そもそも、実母・桜香院はなんでまた、これほど執拗に鬼一こと一郎太を亡き者にしようとするのか。北山藩百目鬼(どうめき)家を押し付けられた兄思いの重二郎は、唯々諾々と一郎太の復帰を待っているつもりか。槐屋(さいかちや)徳兵衛の恩義に甘えているだけでいいのか、鬼一。賽の目が見えるなんて、死ぬまでつづくものか。気は優しくて力持ちの供侍・風呂好きの藍蔵(らんぞう)と徳兵衛の一人娘・志乃の恋は進展するのか。愛読者のみなさん、一刻も早く、読みたいでしょう。

 読者の拍手があれば、煙突男になって、てっぺんに登ってみせるのが、作家という生き物ではありませんか。第5作は9月にお届けする所存です。ここで、周回軌道に乗れば、来年は年4回、読者諸兄姉に電波を送り届ける所存です。どうぞ、お楽しみに。

 因みに、鬼担は高所恐怖症のため、ご一緒に煙突に登ることはありません、悪しからず。

──『突きの鬼一 岩燕』担当者より

syoei

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