◎編集者コラム◎

 『緑と赤』深沢 潮


緑と赤
著者の深沢さんに色紙を書いていただきました。
ご希望の書店さん、編集部へご連絡ください。


 馴染まない。/生まれて初めて手にするパスポート。/赤や紺ではない、濃い緑色。

 本作の冒頭をはじめて読んだときの気持ちを、いまでもはっきり覚えています。小説誌の「ふるさと」というテーマの短編特集の一編でした。主人公の大学生の女の子の気持ちのやり場のなさには胸が詰まるようで、それまで、彼女たちの立場や気持ちをほんとうには理解できていなかったのではと、恥ずかしくもなりました。主人公の知英は、日本と韓国のあいだで宙ぶらりんな気持ちでいる在日韓国人でした。

 作品に登場するのは、知英のほか、K - POPファンの知英の友人・梓、新大久保のカフェで働く韓国人留学生・ジュンミン、ヘイトスピーチのデモに憤り抗議活動をはじめるバツイチの良美、日本に帰化したのちに自分の国である韓国で学ぶ大学生・龍平の五人です。

 梓はもともと韓国カルチャーへのあこがれが強く、ジュンミンのことを好きになりますが、二人の関係を引き裂かれたことをきっかけに、韓国を嫌いになることで自分を保とうとします。窮屈な地方都市に暮らす良美は、K - POPファンつながりの梓からヘイトスピーチの動画を見せられたことで、東京に出て抗議活動にのめり込んでいきます。ジュンミンも梓のことが好きだったことは確かだし、自身の出自を友人に打ち明けた龍平は、反発されもするし受け入れられもします。韓国との距離感はそれぞれ異なりますが、ふたつの国で迷い、悩みながら、自分の答えを探す姿が、心の揺れをていねいに追いながら描かれます。

 物語の舞台は2013年から2014年にかけての日本ですが、2019年になったいまも、登場人物たちのように悩み、声を上げられずにいる人はいると思います。

 本作を自分とは関係のない物語だと感じる人もいるかもしれませんが、ここに描かれているのは、友情であり、恋であり、家族の物語です。そばにいるのに気持ちが伝わらない、理解してもらえない。隣にいるあなたの大切な人が、そんなふうに思っていたら悲しくないですか。私は悲しいし、どうしたら分かり合えるか考えたいです。この作品と関わりながらずっと考え続けています。 

──『緑と赤』担当者より
 
syoei