◎編集者コラム◎『長谷川平蔵人足寄場平之助事件帖3 死守』千野隆司

 ◎編集者コラム◎

『長谷川平蔵人足寄場平之助事件帖3 死守』千野隆司


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 この作品の舞台となっているのは、人足寄場です。人足寄場は、長谷川平蔵が企画立案した施設です。罪を犯した者たちに職業訓練を施し社会に復帰させるという、当時としては世界的にも最先端の矯正施設でした。

 長谷川平蔵の甥である阿比留平之助は、北町奉行所の人足寄場定掛与力として勤めることになります。長谷川平蔵は、既に病を得て屋敷で静養していました。平之助は、時々平蔵の元を訪れ寄場の問題を相談していましたが、2巻『決意』で平蔵が亡くなりました。

 そして、本作がシリーズ3作目となる『死守』です。今回は、人足寄場を出た者が首謀者となって無宿人を煽動して狼藉を働くという事件が続き、人足寄場不要論が幕府の上役から出てきます。平之助は、丹波峰山藩の京極高久より示唆され、町の年寄3名に人足寄場の存続願いを出してもらうことに成功します。それで寄場の存続は決まりましたが、もう一度人足寄場出身の者が狼藉騒ぎを起こしたら、取り潰されると言い渡されます。

 首謀者を捕らえようとする平之助たちは、新たな騒動を起こす動きを掴みます。そして、その背後に黒幕がいることに気付きます。人足寄場廃止の暁に、その広大な跡地を利用しようとする商人と某藩の存在があったのです。

 平之助たちが一味を丹念に探ってクライマックスの大立ち回りに至るまで、緊迫感溢れる展開で一気読み必死です。

 さて、長谷川平蔵は池波正太郎の『鬼平犯科帳』で有名ですが、人足寄場が登場する名作がありました。今回の『死守』解説で、文芸評論家の菊池仁さんが触れている山本周五郎の『さぶ』です。菊池さんは『さぶ』の台詞を紹介しながら、本シリーズが人足寄場を舞台としたことに「作者は貴重な題材を探り当てたといえよう」と書かれています。

 最後に、嬉しいお知らせが入りました。このシリーズが、第7回歴史時代作家クラブのシリーズ賞を受賞しました。今人気の『おれは一万石』シリーズと併せての受賞です。これを機に、さらに広く読者に読まれることを願っています。

──『長谷川平蔵人足寄場平之助事件帖3 死守』担当者より

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