◎編集者コラム◎『落ちた花嫁』ニナ・サドウスキー 訳/池田真紀子

◎編集者コラム◎

『落ちた花嫁』ニナ・サドウスキー 訳/池田真紀子


ochita

 6月の刊行にむけて、翻訳小説を編集しました。原題はJUST FALL、日本版のタイトルは『落ちた花嫁』です。6月です、「ジューンブライド」という言葉もある季節です。まさにいま現実に幸せのときを過ごす新郎新婦の方々には、縁遠いタイトルでしょう。けんかを売ってるようなタイトルかもしれません(すみません)。けれどもこの海外ミステリは、そんな幸せ絶頂の方でしたらなおさら身につまされるはずの内容です。

 物語はショッキングで謎だらけの場面からはじまります。

 舞台は南の島の高級ホテルです。バルコニーからは美しい景色がひろがります。ところが室内でヒロインと思しき女性の目に入るのは、あまりにも凄惨な光景です。この「現在」の場面から一転、物語には「過去」の章が描き出されます。こちらはニューヨークを舞台に、結婚式当日の花嫁を囲んだ、華やかなシーンです。そして再び「現在」、南国のホテルの一室で彼女は剃刀の刃を手にし、残忍な行為におよぶのです。詳細はここに記しませんが、池田真紀子さんによる翻訳原稿を読んでいて、思わず、ひえーっと縮みあがったほどでした。

 ヒロインはどうしてこんな不可解な行動をとったのか? 幸福な未来を約束された彼女に何があったのか? 

 この最大の謎が、現在と過去のエピソードを交互に語る構成と相まって、少しずつ少しずつ解き明かされていきます。本書の解説のなかで、ミステリ評論家の三橋曉さんも指摘されているとおり、「(過去の章は)必ずしも時系列に並んでいるのではなく、巧妙にシャッフルされている」こともあり、それがさらに読む興奮に拍車をかけます。ばらばらだったパズルのピースを、本書を読み進めながらひとつひとつ組み立てて、慎重に一枚の絵柄を完成させていくような興奮です。編集者として、というより、一読者として、二転三転する真実に夢中になりました。

 著者のニナ・サドウスキーさんNina Sadowsky)は、本作で小説家デビューしましたが、これまでに数々の映画やTVドラマをプロデュース、脚本の執筆や監督までこなしてきた、いわばエンターテインメント界のエキスパート。2003年プロデュースの映画『砂と霧の家』では、米アカデミー賞で三部門にノミネートされています。本作『落ちた花嫁』のTVドラマシリーズの準備も米国で進行中のようです。近い将来、「ああもう、つづきが気になる!」と(幸せ絶頂の方も含めて)多くの日本の視聴者がCS放送やDVDなどを心待ちにする日が来ることも、いまからひそかに楽しみにしています。

──『落ちた花嫁』担当者より
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