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スカッとしたい時に刺激をくれる「スッキリ」本

円居挽の『丸太町ルヴォワール』では、言葉で斬り合う剣士たちの壮絶なバトルが、あなたを未体験の読書へと引きずりこむ!

さわや書店フェザン店(岩手)長江貴士さん

 今年もまた、琵琶湖で鳥人間コンテストが行われるようだ。ちょうどこの号が発行されてすぐの頃だろう。鳥人間コンテスト出場を目指す大学生を描いた竹田真太朗『イカロス・レポート』を読むにはうってつけだ。大学で、女子からモテない「サイクリング同好会」に所属していた坂崎は、その脚力を見込まれて鳥人間コンテストのパイロットを打診される。そこで、超絶好みの女性・児島さんと出会った坂崎は、己の持てるすべての力を注ぎ込む決意をする。みんなで一つの目標に突き進む感じ! 仲間との衝突や恋! 汗と涙! まさに、ザ・青春! といっていい作品だ。ただ飛ぶのではない。多くの人の想いを載せて人力飛行機を飛ばすのだ。その重圧から生まれる物語の深みにも射抜かれる。

 爽やかな物語の後は一転、ぶっ飛んだ物語をご紹介しよう。「遠目で見る分には刺激的で楽しいが、近くにいて関わったら最低最悪」という人、あなたの周りにもいるだろう。町井登志夫『爆撃聖徳太子』の聖徳太子も、まさにそんな人物だ。西暦600年代。超大国・隋との関係に苦慮する辺境の島・倭国で、ただ一人隋との無謀な戦いに挑んだ男がいた。聖徳太子その人だ。奇声を発し、人の弱みを握っては自由に操り、神出鬼没で破天荒という最悪な上司・聖徳太子に振り回される主人公・小野妹子に同情しつつ、読み終わる頃には聖徳太子のイメージは一変しているだろう。彼はただの狂人か、あるいは稀代の天才か。是非読んで確かめてほしい。

 最後は、初めて「会話にぶっ飛ばされる」という経験をした、驚異の一冊をご紹介しよう。円居挽『丸太町ルヴォワール』の物語は、大まかに二部に分けられる。前半は、城坂論語という青年とルージュという謎の闖入者との雑談だ。雑談と侮るなかれ。彼らの言葉の応酬が、驚愕の真実をもたらすのだ! そして後半は「双龍会」という裁判に似た見世物が舞台。バレなければ、嘘も捏造も何でもアリ、聴衆を納得させられれば勝ちという「言葉の格闘技」だ。そこで被告になっているのは祖父殺しの嫌疑を掛けられた論語。そのアリバイ証明のために論語は、跡形もなく消え去った正体不明のルージュの存在を証明する必要に迫られる。刀ではなく言葉で斬り合いを続ける剣士たちの壮絶なバトルが、あなたを未体験の読書へと引きずりこむ!

大人なら必ず読むべき最近の「深イィ」本

妊娠した友人に薦めたはるな檸檬さんの『れもん、うむもん!』は、きっと私の代わりに彼女の手を力強く握ってくれるでしょう。

三省堂書店池袋本店(東京)新井見枝香さん

 大人の女性は、悩みが尽きない。結婚、妊娠、出産、育児。書店員の仕事に夢中になりすぎて、生憎私はどれひとつとして経験できていないけれど、相談されたときに「深イィ」本を薦めることはできる。経験できないなら本を読め! さぁ、お悩みどんと来い。

 大学時代の友人と、久しぶりにバーで飲みました。どうやら結婚生活に不満があるようです。「私たち、夫婦仲は最高にイィんだけど、夫が私を求めてくれないの」。セックスレス夫婦といえば、愛情のかけらもない冷え切った関係を想像するけれど、彼女と夫には愛があるのです。じゃあ原因は一体何? どうしたら彼女を救ってあげられる? その答えはきっと、柚木麻子さんの『奥様はクレイジーフルーツ』に書いてあります。スイカのカクテルが染みた白いコースターに、本のタイトルを書いて手渡しました──。

「妊娠したよー」。半年後、セックスレスに悩んでいた友人からメールが届きました。どうやらあの本を読んで、悩みを解決できたようです。お祝いに、またあのバーへ飲みに行くことにしました。「ところがね……ウエェェェっぷ」。レモンのカクテルはノンアルコールなのに、どうしたのでしょうか。「つわりがひどくて死にそうなのよ……もう嫌」。またあらたな悩みが生まれたようです。妊娠は病気ではありません。とてもおめでたいことです。でも、それだけに、体の不調や心の不安定がなかなか周囲からの理解を得られません。はるな檸檬さんの『れもん、うむもん!』が頭に浮かびました。辛く孤独な妊娠・出産体験をコミックにした檸檬さんが、きっと私の代わりに彼女の手を力強く握ってくれることでしょう──。

「今日、子供を預かってくれない?」それから3年後、突然連絡してきた友人は、片手に「裁判員候補者名簿に登録されました」というお知らせを握っていました。同じ年頃の子を持つ母親が虐待をして死なせてしまった、という事件の裁判です。母親である彼女が担当するには、あまりにも酷な事件です。私は彼女が裁判所に行っている間、子供と書店に行って、角田光代さんの『坂の途中の家』を買いました。裁判所から戻ってきた彼女に、しっかりと手渡すつもりです。この本があってよかった。きっと彼女なら大丈夫。私は物語の力を信じています。

 

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