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夏の暑さを忘れて一気読みしてしまう本

読者の「思い込み」にたたみかける大どんでん返し。
歌野晶午さんの 『葉桜の季節に君を想うということ』を読んで騙されて下さい。

平坂書房MORE'S店(神奈川)疋田直己さん

 庭の雑草の伸びが早くなる季節。と同様に梅雨特有の湿気。寝苦しくなる時季だからこそ、一冊の素敵な本に出合ってみたくなるのは、書店員ならではの性では。

 暑い季節に一気読みしたくなるということで依頼を受けましたが、今回紹介するのは自身を変えたミステリーの傑作をご紹介します。

白夜行』(東野圭吾)から。19年前に起きた不可解な殺人事件から物語は進んでいく。バラバラに見える多くの登場人物や話の伏線が最後の最後で一つの線に繋がっていく作風に圧倒されました。

 この作品が出た1999年は、『永遠の仔』(天童荒太)も出ており、年末の「このミステリーがすごい!」にて国内部門1位を『永遠の仔』に奪われました。後に東野圭吾は『白夜行』で賞を取れなかったことを悔やんでいました。このエピソードは、東野圭吾が『白夜行』に対する自信を物語ったものといえるのではないでしょうか。

 続いては『葉桜の季節に君を想うということ』(歌野晶午)。2004年のあらゆるミステリーの賞を総ナメにした傑作。一般的に叙述トリックを使う作風は読者を騙そうと作者が使用したがる傾向が強いですね。

 そういう意味ではこの作品は持っている水準以上に仕上がっています。

 主人公に依頼された保険金殺人疑惑の事件と不当な金額で商品を売りつける企業の調査。そこに過去の事件が混ざり合って意外な真実が最後に明らかになります。

 驚くのは読者の「思い込み」をうまく利用している点。そこにたたみかけるような強烈な大どんでん返し。是非この本を読んで騙されて下さい。

 最後は上記同様に叙述ミステリーの大御所である折原一の『冤罪者』。この「〜者」シリーズは数多く出ていますが、第一弾であるこの作品は類を見ない傑作です。

 主人公五十嵐の元婚約者殺害事件で逮捕された河原。河原の冤罪が認められると事件は一気にあらぬ方向へと加速して行きます。

 最後の真犯人は予想すらつかない人物に、何度も後戻りして読み直しました。

 お客様に「素敵な本、ありがとう!」と言われる書店員を目指して奮闘中です。

人生を深く考えさせられる本

長岡弘樹さんの新作短編集『赤い刻印』は、通勤時間内で完結する人間ドラマ。久しぶりに電車を乗り過ごしてしまうかも。

紀伊國屋書店富山店(富山)小作昌司さん

「高校生の頃、自分が六十代になるなんて考えられなかったのに、(中略)他人の手を借りる日を、できるだけ遅らせたい」

 一冊目は内館牧子さんの『終わった人』。仕事をしなくなった今、平日に通うスポーツジムはもはやジジババのサロン。東大法科を出て一流銀行で役員まで昇り詰めた主人公が、定年を迎えてプライドと他人の目を気にしながら趣味もなく生きていく姿は、間違いなく訪れる「老後」を仮想体験させてくれます。家庭内での時間の使い方もわからず、夫婦の間で少しずつ距離があき、会話もなくなってくる。お嬢様学校を出た妻は習い事の趣味を新しい生き方として着々と準備。

 主人公は「終わった人」なのか、「これから新しく何かが始まる人」なのか。「運? 実力?」幸も不幸も同時にやってきます。ご紹介する私も五十歳代。今から考えておきたい将来、恐ろしい現実が。でも、こんなに上手くいくの?

 二冊目は松原始さんの『カラスの教科書』。動物行動学者ってスゴイ! イラストがかわいくてカラスに対するイメージが変わります。ちょっと怖いけど話しかけてみようかと。普段はゴミ集積所で出合うため、ゴミを荒らす害鳥のイメージ。でもカラスの特性(性格?)を知ると「子猫に負けない愛くるしさ」があるそう。人間はゴミを出す時に「燃えるゴミ」と「燃えないゴミ」に分ける。カラスがゴミを散らかすのは「食えるゴミ」と「食えないゴミ」に分けるから。特に赤やオレンジ系の色は肉や果実の色だからミカンの皮を外側に入れるのは「ここを狙え」と教えているようなものらしい。後半は「取説」ならぬ「鳥説」。「カラス的グルメ 私、マヨラーです」は微笑ましい。

 勉強になる事間違いなしの1冊。モノゴトを一方からしか見ていなかったんだ。ただ黒一色がねぇ、と思っていたらヨーロッパには白黒のまだら模様もいるとか。うーん、見てみたい。

 最後は長岡弘樹さん『赤い刻印』。短編ミステリーですが一編ずつ中身の濃い作品。読み直して「あー、そういう意味も」と納得。久しぶりにミステリー物を読んだ読後感が味わえます。標題の「赤い刻印」は、もう少し続きが読みたくなる作品。と思ったら前作「傍聞き」の表題作と同じ主人公。通勤(電車1回乗車分の)時間内で完結する人間ドラマ。久しぶりに乗り過ごしてしまうかも。

 

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