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今月飲むのを我慢して買った本

西加奈子さんの『舞台』は、暴力的なまでの小説の力に
呆然とさせられた『ふくわらい』に驚愕した方に推したい。

紀伊國屋書店富山店(富山)野坂美帆さん

 酒代、というか、食費を削って買った本、というのが正しい。大丈夫。私は大袋30円のパンの耳があれば生きていける。

 さてそんな切ないお金で買った本をご紹介したい。まずは森絵都さんの『漁師の愛人』。2011年発売の『この女』を読んだときは太く骨のある新境地を堪能したけれど、こちらも良い。『オール読物』に7年連載された「ラフスケッチ」という短編シリーズから5編を収録。キーワードとなったプリンが物語に柔らかさと生活感を与える3編は、ハッとする青春のきらめきを切り取っている。表題作は、愛人である中年の女の緩やかな心の変化を掬い取った読み応えあるもの。推したいのは震災直後のシェアハウスの様子を描いた「あの日以降」。否応なく変化していく感情、変わらないままにしておきたかった日常、30代の女性3人が集まったシェアハウスで紡がれる物語は現実感をもってそこにある。

 次は千早茜さんの『からまる』を。小説すばる新人賞、泉鏡花文学賞を受賞した『魚神』から数えて単行本3作目となる本作がついに今年1月文庫化。7人の男女の関係を描いた連作短編集。蝸牛、クラゲなど、各編それぞれぬめりを帯びた生物や水に関連したモチーフが使われ、物語に独特の湿度を持たせている。絡まりあった人間模様は複雑ながらもどこか仄かで、静かだ。登場人物が抱える悩みは、確かに現実に誰かが心に秘めているもののように思えるが、生々しさがない。が油断して幻想性に沈んでいると、ふいにこれこそが真実なのではないかと思える一文にどきりとさせられる。美しく感性豊かで柔らかな文章は、遠い時代の文豪が立ち現れたようだ。

 最後に西加奈子さんの『舞台』。2012年発売の『ふくわらい』を読んだときは、余りの衝撃に倒れるかと思った。生きるということを「ことば」という側面から切り取ったこと、その描き出し方の鮮やかさ、圧倒的な筆力、もうどうしようもないと思った。暴力的なまでの小説の力に呆然とした。『舞台』は『ふくわらい』に驚愕した方に推したい。自意識と羞恥心に振り回される青年が少しずつ世界を知っていく物語は、滑稽で愛おしい。しかしそれは、デフォルメされたもう一人の自分の物語なのではないか。そんな錯覚に陥ってしまう。主人公の苦しみを体感しながら通り抜けた最後には、目の前の世界が新しく生まれ変わっていることに気付く。

 お腹はペコペコでも胸はいっぱい。が、来月はもうちょっと食事にもお金をかけようと思っている。できればアルコールも摂取したいものだ。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

同じ経験がなくとも、自分の過去と向き合うような感覚を
頭の隅に置きながら読んだ、彩瀬まるさんの『骨を彩る』。

三省堂書店海老名店(神奈川)根岸裕子さん

  春は本屋大賞の季節。すっかりそんなイメージになってから早10年あまり。そんな春、当店のベストを眺めてのここしばらく静かに売れ続けている小説をご紹介。

 1冊目は『天地明察』で本屋大賞を受賞した冲方丁さんの最新作の『はなとゆめ』です。冲方丁は女ごころも書けるんだ! と驚きの1冊。『天地明察』で時代小説に新しい楽しさをもたらしてくれた冲方丁の新刊が清少納言の話と聞いたときは驚くとともにとても発売が待ち遠しかったです。あのインテリの清少納言が密かに、でもひけらかすようななんともいえない謙り感がその語り口調からよく伝わる。でもそんな彼女が主である中宮定子をこよなく愛し敬っているのもよくわかります。多分結婚相手よりも誰よりも中宮様が好きだよね……という。「春はあけぼの……」しか知らなくても、彼女が『枕草子』を書くに至るまでの人生を、物語の中に浸ってたっぷり楽しませてもらえる1冊です。

 次の1冊は近いうちに本屋大賞にもノミネートされて欲しいと願う作家、彩瀬まるさん。昨秋発売の『骨を彩る』。名前は知っていたのです。「まる」というちょっと面白い響きで。薦められて読み始めたのですが嬉しい驚き。上手い!

『はなとゆめ』が物語をたっぷり楽しむ本なら、こちらは物語を読みながら自分のことも省みる感じの小説。登場人物に自分の感情を揺さぶられるので、全く同じ経験はしていないとしても、何か自分の過去と向き合うような感覚を、頭の隅に置きながら読み進めました。ひとつの話の登場人物が次につながって行く連作短編なのですが最初の「指のたより」の冒頭から引き込まれました。登場人物たちが抱える、誰にもわかってもらえないと思っている感覚は年齢や立場によって様々で、どの話に一番感情移入出来るかは読む人の年齢や性別によって違ってきそうです。最新刊の『神様のケーキを頬ばるまで』も、こちらとは違った切り口で展開する連作短編集でおススメです。

 最後の1冊は趣向を変えて、中島要さんの人情時代小説『しのぶ梅 着物始末暦』。着物の染み抜き、洗い、染め直しなどをこなす謎の凄腕イケメン着物始末屋・余一とそこに悩みを持ち込む周りの人びととの連作短編集。余一にすっきり仕立て直され、色々「使いきる」気持ちの良さが伝わるシリーズの1冊目。巻末についている付録の着物柄も素敵です。

私はこの本を1日1冊1すすめ

小野不由美さんの「十二国記」シリーズの中でも圧巻なのは、
痛快さ、爽快さが群を抜いている『図南の翼』。

ブックセンター湘南桜ケ丘店(宮城)城 美智子さん

 今回は私の大好きなシリーズ二作品と、大切にしている本をご紹介します。

 まずは小野不由美さん「十二国記」シリーズ。十二の国に十二の王と麒麟がいる異世界ファンタジーです。この本、世界観が半端ないです。細部にまで作り込まれた世界、人物、妖魔、その他諸々が非常に素晴らしい! それこそトールキンの『指輪物語』のような壮大なスケールで描かれており、読み始めたら当分その世界から帰ってこられません(笑)。作品ごとに主人公の立場が全く異なるのも面白い。普通の女子高生が異世界で王になる話、麒麟が王を選ぶ話、国造りの話等、バラエティに富んでいます。なんといっても圧巻なのは、『図南の翼』。この本では十二歳の少女が昇山し王になるまでを描いているのですが、その痛快さ、爽快さは今まで読んだ本の中でも群を抜いています。また山田章博さんの挿絵の美しさといったら、何度見てもうっとりし、十二国記の世界に引き込まれます。

 次にご紹介したいのは、高田郁さんの「みをつくし料理帖」です。こちらのシリーズでは、故郷の大坂で幼くして天災により親を亡くした澪が、その後江戸に出て天性の味覚と周囲の人々に支えられながら、一流の料理人を目指すお話です。いよいよ最新刊の『美雪晴れ』にて、第九弾を迎えました。最初は大坂と江戸の味の違いに戸惑い苦悩することもありましたが、次々と新しい料理を考案し次第に評判を高めていきます。この作中に出てくる数々の料理がとても美味しそうで、食べているところを想像すると私まで幸せな気持ちになるのです。澪の恋や別れ、又次の死など様々な出来事を乗り越えてやっと明るい兆しが見えてきた今作。幼馴染みの野江(あさひ太夫)と澪の行く末はどうなるのか、八月発売の次巻にて堂々の完結です! みなさん、お楽しみに。

 最後は三月のこの季節に、私の大切な一冊をご紹介します。ニコ・ニコルソンナガサレール イエタテール』です。著者のニコさんは宮城県山元町出身。震災にて実家が津波で流されました。全壊した実家を母娘三代で再建するまでを描いたコミックエッセイです。本書は重いテーマでありながら時に笑いを、時に涙を誘う、心が温かくなる本なのです。不謹慎だと思いながらも、私も思わず噴き出してしまうことが何度もあり……。震災を風化させないためにも、たくさんの人に読んでもらいたい本です。

 

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