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今月飲むのを我慢して買った本

柚木麻子さんの切迫感のある描写に圧倒されて、
読み終わった後はふう、と一息ついた『ナイルパーチの女子会』。

紀伊國屋書店国分寺店(東京)橋本由佳さん

 お酒の場も本を読む時間も何ものにも代え難く好きな私は、このお題をいただいた時、正直「飲むのも読むのも我慢しない!」と思ってしまいました。

 そんな中でも特に、お財布の中身も、部屋の時計も気にすることなく手に取り、読みふけった3冊をご紹介します。

 柚木麻子さんの新刊『ナイルパーチの女子会』。なんとまあ、どぎつい、えぐい。

 先が気になる、気になるのに、あまりにも怖すぎて、思わず読むのを中断してしまうほどでした。ブログを通じて運命的な出会いを果たした栄利子と翔子。一生の友人になれると思ったのもつかの間、まさかこんな形のラストを迎えるとは!

 栄利子の人格がどんどん破綻していく様、翔子がぐんぐん引きずられていく様。柚木さんの切迫感ある描写に圧倒されて、呑み込まれて、読み終わった後はふう、と一息。いやー、すごかったです。すごかった。

 春が来る、彼らに会える。小路幸也さん『ヒア・カムズ・ザ・サン 東京バンドワゴン』。シリーズも10作目です。サチさんの語りから始まるのも、にぎやかな食卓も、LOVEも健在。孫やひ孫は大きくなって、現世を去る人もいて、堀田家は、私たちと同じように1年を過ごして、また春を迎えて。おなじみのメンバーと久しぶりの再会を果たせる安心感、成長を感じるあれやこれや。離れて暮らす家族に会える、1年に1回の特別な日。

 今年も無事に近況報告が聞けて嬉しかったです。毎回タイトルになっているビートルズの同名曲を聞きながら、あたたかな日差しのもと、ぜひに。 

 最後はいしわたり淳治さんの『うれしい悲鳴をあげてくれ』。ロックバンドのメンバーとしてデビュー後、作詞家や音楽プロデューサーとして活躍されている著者ですが、まさかこんな才まで秘めているとは。現実と妄想とが絶妙に入り乱れるこの雰囲気に、心地よさを感じること間違いなし。思いもよらない発想のオンパレードで、楽しめないわけがない!

 最初のお話で完全に持っていかれました。こんな人が世の中を治めてくれたら、きっと明るいユーモア溢れる世になるだろうに、なんて。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

小野不由美さんの『営繕かるかや怪異譚』は、
どろりとした不気味さだけでなく、何処か最後はホッとする一冊。

三省堂書店有楽町店(東京)平山佳央理さん

 まさか自分に本の紹介コラムのお話が!! またとない機会。有り難き幸せ……未熟者ながら本への愛は溢れておりますので、自分自身が全力で楽しみながら紹介したいと思います。まずはジメジメとした梅雨の鬱陶しさを吹き飛ばすような爽やかな青春小説を一冊。

 瀬尾まいこさんの『あと少し、もう少し』です。

 中学陸上駅伝のお話で、襷を繋ぎながらそれぞれ一人ずつの視点で色々な思いや悩みが書かれていくのですが、スポーツ小説で走ることに関する話というのは、何故あんなにも突き抜けるように爽やかで心を熱くするのか……。

 自分も登場人物と一緒に走り、手に汗握りながらの読後の爽快感は、今すぐにでも外に飛び出して自分も走り出したくなるくらいでした。

 次の一冊はちょっと早い怪談物。しとしと降る雨の夜か、どんより曇った昼下がりにでも読んでもらえたら雰囲気倍増間違いなし!!

 小野不由美さんの『営繕かるかや怪異譚』。それぞれの家で起こる不可解な現象。淡々と進む話の中に、どこかどろりとした不気味さが漂う中、そこに呼ばれる営繕屋。家で起こる不可解な現象には何かしらの訳がある。そんな障りをそっと直し、住んでいる人の気持ちもそっと救っていく。

 どろりとした不気味さだけでなく、何処か最後はホッとするそんな一冊。

 最後は30位前後というより超ロングセラー本。池波正太郎さんの『男の作法』。

 父親の本棚にあり、何気なく手に取り読み始めて一気読み。こんなにも読後に充実できて自分の生活というより生きる糧になった本はないと思います。

 出版されたのは昭和の時代と古く、池波さん自身もこんな作法は古いと本文の中でもおっしゃっていますが、今読んでも全く古くない! むしろこれから大人になる人が読めば誰からも一目置かれる人間性が備わるだろうし、男性に限らず女性が読んでも得られるものは多いはず。

 父親とは思春期のギクシャクが未だになんとなく続き、あまり話さないのですが、こんな渋恰好良い本を読んでいた父親をちょっと意外に思い……、これを機に父の日も近いので前より仲良く話せたらと実は思っています。

私はこの本を1日1冊1すすめ

時を超え、甘酸っぱさとほろ苦さに囲まれて、
ヒーロー気分になれる板橋雅弘さんの『時をかけたいオジさん』。

明林堂書店JR別府店(大分)松永千歌子さん

 私は冬生まれのせいか、夏が苦手。でも夕暮れ時は別で、夏の夕暮れは何故か遠い昔を思い出す──私だけの密かなタイムスリップ。……というわけで夏といえば時間SF! 強引? そんなことはありません! 物語の舞台が夏のSFは多いんですよ!

 まずは、全ての始まりと言っても過言ではない、半村良さんの『戦国自衛隊』。

 初版が刊行されたのは1974年ですが、その設定や、史実との絡め方・パラドックス回収が画期的で、初めて読んだときはかなり興奮したものです。

 今読んでも全く色褪せない作品であることが、昨今のライトノベルの異世界トリップ戦記ものの盛況ぶりからも明らかです。日本人の魂を大いにワクワクさせた一冊であることは間違いありません。

 続いては、法条遥さんの『リライト』。“SF史上最悪のパラドックス”のアオリに釣られましたが、釣られて正解。物語は、ある人物を助けるため、10年前の自分が携帯電話を取りに現代にやってくるはずなのに来なかった……というところから始まるのですが、小さな疑問や綻びが、まさに最悪の結末に収束していく様に、“やはり人間ごときが時間に敵うはずがない”という、当然の絶望を認めざるを得ません。SFファンだけでなく、イヤミスやホラーファンにも強くオススメです。

 最後は、板橋雅弘さんの『時をかけたいオジさん』。作者は以前、大ヒットコミック『BOYS BE…』の原作を手がけた方です。まだまだ青春を諦めないお父さんにこの一冊! 表紙も有名作のパロディですが、内容も70年代SFドラマのオマージュがちらほら。

 何と言っても悪戯っぽくチャーミングなヒロイン・留子が本当に可愛い! 時を超え、甘酸っぱさとほろ苦さに囲まれて、ちょっとヒーローになれる物語です。

 それぞれ内容が違う作品を並べてみましたが、つまり時間SFというのは人間の想像力を大きく広げてくれるジャンルだと思います。

 紹介した作品は全て夏の物語です。夕暮れ時、何かが起こりそうな日に読んでみてください。本からふと顔を上げたら、そこはもしかしたら違う時代かもしれませんよ?

 

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