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今月飲むのを我慢して買った本

満足の読了だった真梨幸子さん『人生相談。』は、
色眼鏡をはずして挑め!との回答をくれた記念すべき一冊。

文教堂書店中山とうきゅう店(神奈川)樺島聖子さん

 人生で大切にしているもの。家族、友人、職場の仲間たち。美味しいものを作ること、食べること、食べさせること。お酒を飲むこと。語学学習の継続、読書。どれも欠くことのできないものばかり。とはいえ、一介のパート主婦書店員の身の上。すべてを同時に平等にとはいかず、その時々で優先順位を入れ替えながらのワーク・ライフ・バランスである。

 まずは『初恋料理教室』。著者の藤野恵美さんの名が友人と一字違い。そんな理由で何気なく読んでみた作品が気に入り、新作を手にとった。舞台は京都、母語・関西弁、美味しそうな料理に世代の異なる登場人物たち。どれもが私のツボにはまった。料理を介して通い合う心と心。著者が紡ぐ言葉のセンスが抜群で、毎日のおさんどんでは二人の息子と心が通い合わない母でも臨場感たっぷりに入り込むことができた。「であいもん」はこれからの注目ワードかも。

 つづいて真梨幸子さんの『人生相談。』。ランドセルを背負っている頃から新聞の中でずっと楽しみにしているのが人生相談。購読紙は替わったけれどいつも気になるコーナーがタイトルなのだから、手にとるのは必然。一つの相談記事に始まり一章ごとに異なる物語が描かれ、相談の回答が。これが徐々に絡み合っていき少しずつ読もうと思ってもページをめくる手は止まらない。明日は入荷が多い日だ。寝なくちゃ、とわかっていてもやめられない。そんな本だった。満足の読了後驚いた。真梨幸子さんの作品はどちらかといえば苦手だったのだ。別のタイトルだったなら手にとらなかっただろう。苦手の克服を無意識のうちに相談し、色眼鏡をはずして挑め!との回答をくれた記念すべき一冊になった。

 最後に林真理子さんの『白蓮れんれん』。大阪に住む義母がきっかけをくれた。突然の電話。福岡で生まれ育った思いやり深い義母は滅多なことで電話をしない。白蓮さんのことを私に話したくなったと朝ドラを観てかけてくれたのだ。含蓄ある言葉をいつもかけてくれる義母の幼い頃から有名で話したくなるほどの人物が描かれている本書は、真理子先生の実力がぞんぶんに発揮されており夢中になれた。

 今月飲むことの優先順位を下げた納得の三冊に、乾杯!

当店の売れ行き30位前後にいる小説

平岡あみさんの『ともだちは実はひとりだけなんです』は、
少女の瑞々しく鋭い感性で日常を切り取った作品。

蔦屋書店武雄市図書館(佐賀)峯 多美子さん

 詩や短歌というものは、何となく難解で、身近ではないというイメージがあります。それをなんとか払拭して、詩のおもしろさ楽しさを届けたいと企画した「若手及び地元の詩人歌人たち」フェアの作品の中からまずはご紹介します。

 笹井宏之さんの『えーえんとくちから』。笹井さんは、2009年に26歳で夭折した地元の歌人です。本の題名にもなったこの不思議な響きを持つ詩はこう続きます。

 えーえんとくちからえーえんとくちから

 永遠解く力を下さい。言葉の持つ不思議と想像力を掻き立てる詩、短歌ならではの魅力に満ちた詩です。

 次にご紹介するのは、平岡あみさんの『ともだちは実はひとりだけなんです』です。

 平岡さんが12歳から16歳になるまでの心情を綴った短歌集です。彼女の祖母が亡くなった後、彼女はこう詠みます。「駅前に祖母が迎えに来てくれたこともあったとその道で思う」。初恋の喜びと不安は、「よろこぶよね、よろこぶよねと編みかけの毛糸に話し暗示にかかる」と表現されます。

 ともだちは実はひとりだけなんです。認めるまでに勇気が必要。表題作は彼女の孤独感があまり悲壮感はないものの、確かに伝わってきます。10代の少女の瑞々しく鋭い感性で何気ない日常を切り取った作品です。また宇野亜喜良さんによる装丁、数々の挿画も素敵です。

 最後にご紹介する作品は当店で開催しております幻想文学フェアから選んだものです。

 ゾラン・ジフコヴィッチ著『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』。「ティーショップ」「火事」「換気口」の3編からなる短編集です。タイトル通り、どの作品も不思議なテイストの作品です。

「ティーショップ」は、旅の途中の女性が、「物語のお茶」を注文するところから始まります。彼女がお茶を飲む間ウエイターやウエイトレスひいては店の客までが、入れ替わり立ち替わりしながら物語を語っていきます。それが円環的に続いて最後にどうなるのか……。語られる物語が実に奇妙で不思議な話で引き込まれます。他の2編もやはり奇妙で幻想的な物語です。短編は作者の技量が問われるとよくいいますが、そういう意味では著者は間違いなく一流の作家なのだと思います。

私はこの本を1日1冊1すすめ

沖縄が舞台の阿川大樹さん『あなたの声に応えたい』は、
暑くて仕事のやる気が出ない方にはもってこいです。

ジュンク堂書店ロフト名古屋店(愛知)遠藤愛子さん

 夏といえば沖縄。いつか行ってみたいと思いながら、今年も名古屋の本屋で夏を過ごします。そんな中、沖縄気分を感じさせてくれる本に出合いました。最近文庫化された『あなたの声に応えたい』、阿川大樹さんのお仕事小説です。沖縄が舞台のコールセンターで働く女性の物語なのですが、コールセンターに詳しくない私にはとても新鮮で面白かったです。仕事の内容も、そこでの人間模様がなんとも現実的で、主人公には共感の連続でした。そして描かれる沖縄の景色に町の様子、歴史的な背景までも魅力的で、読んでいるうちにすっかり沖縄の空気を吸っているかのように。読み終わったらなんだかとてもすっきりリフレッシュしていました。暑くて仕事のやる気が出ない……そんな方にはもってこいの一冊です。

 続きまして、松家仁之さんの『火山のふもとで』も夏が似合う一冊。夏がくると東京を離れ、軽井沢近くにある「夏の家」で仕事をするという建築事務所の話です。入所したばかりの若き建築家の、夏の家での経験とひそやかな恋が物語の軸になっています。おそらくこの物語で描かれていることは誰の身にも起こりうる平凡な出来事なのでしょう。にもかかわらず何度も読み返したくなるのは、建築のディテールや、鳥や木々や花の名前、車の種類、音楽、など一つ一つ細かく設定されていることで、張り巡らされた美意識が、視覚的に感じられるから。むくむくと想像が膨らんで、読書の喜びを感じずにはいられませんでした。私にとってこの物語は懐かしい旅の記憶のように心に残っています。

 最後に、ぜひとも多くの人に読んでいただきたい、短編集をご紹介します。名古屋在住の作家、加藤元さんの『嫁の遺言』は、「大人向けのおとぎ話」。ユーモアにあふれ、心揺さぶられる全七編が収録されています。一編を読み終わるたび、家族や友人の顔が浮かび、私はこの人たちにすごく助けられているなあ、と改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。穏やかな読書時間が終わると、主人公たちのように「昨日よりほんの少し優しい人になっている」自分がいます。読んだらきっと身近な人へお薦めしたくなると思います。この本が大切な人へ大切な人へとつながっていきますように、と思いながら今日もお店に並べています。

 

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