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今月飲むのを我慢して買った本

白石一文さんの『快挙』は、共に生きていくとはどういうことか、そして自分にとって「快挙」は何かを考えさせられる1冊。

丸善・丸の内本店(東京)高頭佐和子さん

 本を読むのももちろん好きですが、おいしい食べ物や酒も大好きです。一人飲みながら読書。親しい人と飲みながらの本の話。セットで行うと、なお良いものですよねえ、酒好き、読書好きの皆さん。

 そんな私が、「この本があれば今日は酒いらん!」と思ったのが、篠田直樹さんの『シノダ課長のごはん絵日記』です。

 シノダ課長は普通のサラリーマンなのですが、毎日の食事記録を、20年以上も味のあるイラストと軽快な文章で記録し続けるという、驚異的な持続力で食に対する愛を表現し続けてきた稀有な男性。某テレビ番組に出演し絵日記を公開しているのを偶然見かけ、「誰かこの日記を出版してくれますように……」と祈り続けてきました。

 憧れの人と初めて会うような気分で購入したこの本、見ているだけで食欲が満たされていきますよ。入籍した日に食べた天ぷらそば、出張先の中国で食べた羊肉のしゃぶしゃぶ、娘の進学を祝って食べた焼肉……。食・仕事・家庭を大切に暮らしてきた一人の男性の生き様に、なんとも言えず温かな気持ちになりました。おいしい物好きの友人に見せたくなってしまい、結局翌日は飲みに行ってしまいましたが。

 もう1冊は、楽しみにしていた白石一文さんの長編小説『快挙』です。一昨年刊行された『』は、ここ数年に読んだ小説の中で、最も人生観に影響のあった1冊。

 発売日は休みの日であったにもかかわらず、本を買いに出勤してしまいました。ある夫婦の出会いから中年期までの結婚生活が、時代の変化とともに描かれた小説です。夢があり互いを思い合える時期、希望が絶たれ気持ちが離れていく時期。共に生きていくとはどういうことか、そして自分にとって「快挙」とは何か、きっと誰もが考えさせられる1冊です。今月の私にとっては、この本と出合いが「快挙」。一人でも多くのお客様がこの本に気がついてくださったら、嬉しいです。

 ちなみに、『快挙』と『翼』をセットで購入しても1回の飲み代より安いんです。これだけ充実した時間が過ごせてこの値段って、本はすばらしいなあ……。気のすすまない宴会などは適当に理由をつけて不参加にし、ぜひ書店に本を買いに来てください!

当店の売れ行き30位前後にいる小説

退職間近のOLの発言が鍵を握る章もある、池井戸潤さんの『七つの会議』は、小さな声が職場に変化を起こす様が快感。

代官山蔦屋書店(東京)間室道子さん

 男が女の世界を覗くって「なんだか怖そうだから止めておきます」となりそうだけど、女性は男性の生態に興味しんしん。理解したいと思う気持ちが旺盛なのですね。でも内緒でケータイ見ちゃうなんてのはNG。本で学ぼう!が今回のこのコラムの裏テーマです。

 まずは池井戸潤先生の『七つの会議』。男女平等は今や当たり前だけど、会議ってまだ男性中心が多いのでは? 皆さん発言してます?

 企画会議、重役会議など会社にはさまざまな会議があり、家では家族会議、友達同士で恋の作戦会議なんてこともしますね。「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!」という名言があるけど「事件は会議室でも起きてる!」ていうか「会議こそ事件だ!!」と叫び返したくなる本書。七つの会議が一つの大きな謎に向かっていくのです。男同士の足の引っ張り合い、権力の振りかざしは時に腹立たしく時に滑稽ですが、じゃあ会議の場で私はどうなの、と襟を正したくなります。退職間近のOLの発言が鍵を握る章もあり、小さな声が職場に変化を起こす様は快感。

 辻村深月さんがエッセイで“「アメトーーク!」って、女子会ならぬ「男子会」みたい”と書いていたのを見て、この番組のナゾが解けた! と思いました。確かに共同戦線で笑いを大きくし、時に客席の女子たちをおいてきぼりにしちゃう暴走ぶり(それがまた笑いを大きくする!)は男子会そのもの。『たくらむ技術』は、この「アメトーーク!」、そして「ロンドンハーツ」という大人気番組のプロデューサー、加地倫三さんの本。最近いじられキャラとなった千原ジュニアの内側に見えたもの、ロケ先での停電事故を笑いに変えた機転など、スリリングな裏話満載です。

 ラストはフランス人ジャーナリストのミシェル・テマンが北野武にインタビューした『Kitano par Kitano 北野武による「たけし」』。今まで知らなかった過去や人生観があの口調で語られていて、とても大人。そしてその裏の、子供の魂を失わない澄んだ人柄が浮かび上がっています。

 覗き見は大勢でわいわいするものじゃなく、小さな穴を見つけた女子がこっそり楽しむもの。そんな感じが「30位前後でずっと売れてる」という位置のヒミツかも。

私はこの本を1日1冊1すすめ

森見登美彦さんの『ペンギン・ハイウェイ』は、主人公アオヤマ君が魅力的で、読了後、好きにならずにはいられない

ときわ書房八千代台店(千葉)永守珠恵さん

 動物が好きだ。時間を気にすることなく犬猫と戯れていたいし、水族館ではアザラシの前から一時間は動かない。ネットで動物画像を見始めてしまうと自力でやめることはほぼ不可能で、誰かとめてくれーと思いながら新しい画像を開いてしまう。そういうわけで、動物が登場する本にはつい手が伸びてしまう。一部をこちらで紹介したい。

 まず最初にオススメするのは森見登美彦さん『ペンギン・ハイウェイ』。題名通り、ペンギンが多数登場する。列になったペンギンがよちよち歩く様はとてもキュートだ。でもこのペンギン、ただのペンギンじゃない。なんとコカ・コーラの缶が変形して誕生するのだ。

 そう、『ペンギン・ハイウェイ』は第31回日本SF大賞を受賞したSF作品なのだ。だが、SFといわれて連想しがちな難しい単語は出てこない。小学四年生のアオヤマ君が、身の回りに起こった不思議を研究する冒険譚になっている。この主人公アオヤマ君がペンギンに負けず劣らず魅力的で、ぐいぐい引き込まれてしまう。読了後、アオヤマ君を好きにならずにはいられない。

 魅力的なキャラクターが多数登場するといえば、香月日輪さんの『妖怪アパートの幽雅な日常』シリーズも欠かせない。人と妖怪が同居するアパートは、非日常の連続。そのドタバタぶりに笑ったり涙したりと感情を揺さぶられること必至。小学校の朝読書で人気のあるシリーズというだけあって、読みやすく若い人から大人まで幅広い層にお楽しみいただけると思う。私のオススメキャラクターは勿論、もふもふ(妄想)で愛情深い犬、シロです。

 動物が登場する本、と言っておきながら変化球が続いたので最後は正統派を。梨木香歩さんの『渡りの足跡』は渡り鳥をはじめとする生き物を追った記録だ。鳥の知識はマンガ『とりぱん』によるものだけで、バードウォッチングなどしたことのない私でも、独特の表現で描かれる鳥の魅力に触れることができた。動植物を扱った話はどうしても自然賛美となりがちな印象があるが、この作品は違った。自然と人工物が対比になるのではなく、この世界に生きるものたち、という姿勢を感じた。選び抜かれた言葉によって紡がれる他者への思いを、多くの人に感じ取ってほしい。

 

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