物語のつくりかた 第3回 堀井雄二さん(ゲームデザイナー)

「ドラゴンクエスト」シリーズ


horiisan

 1986年の発売以降、社会現象となるほどのブームを起こし、ファンを魅了し続ける「ドラゴンクエスト」シリーズ。最新作『ドラゴンクエストXI』の出荷・ダウンロード販売本数は300万本を超える。国民的人気の背景には、老若男女を虜にするストーリーやキャラクターがある。生みの親、堀井雄二さんの発想の源は、多くの作品や人物との出会いにあった。

 ゲームデザイナーの仕事は、ゲームの世界の設計図を作ることです。「ドラゴンクエスト」であれば物語の流れを考え、マップを書き、人を置いて台詞をつける。そして、お店を作って、売り物や値段を決める。さらにモンスターを配置して、強さを決めて、どれくらいの経験値でレベルが上がるか設定する。今はスタッフが大勢いてくれるので、僕の設計図をもとに分業で作っています。本編から派生した外伝的なゲームに関しても全体を見ていますよ。

 物語との出会いは、幼少期、近所の貸本屋で読んだ漫画です。手塚治虫さん作品が好きでした。時間を操る能力を持つ『ふしぎな少年』、狼男の変身もの『バンパイヤ』、そして『ブラック・ジャック』。テレビ番組の『ウルトラQ』や海外ドラマ『ミステリー・ゾーン』、『奥さまは魔女』もよく見ていました。SFやファンタジーのような、非現実的で好奇心や想像力を刺激するものが好きでしたね。

 小説では星新一さん、司馬遼太郎さんをよく読みました。司馬作品に出会うまでは、歴史ってあまり好きじゃなかったんですよ(笑)。でも『竜馬がゆく』なんて全8巻もあるのに一週間で読んでしまうくらい夢中になってしまいました。史実ではなく人にクローズアップしていたこと、文章のうまさで一気にハマったんです。

『国盗り物語』は「『国主になりたいものだ』と乞食はつぶやいた」(新潮文庫より引用)と始まる。読者は、そんなことありえない、このあとどうなるの? と思うわけです。斎藤道三の落ちぶれた生活から始まり、ポーンと物語が飛躍するのがドラマティック。星さんはショートショート、司馬さんは長編ですが、掴みの早さ、ひっくり返し方には共通するものがあります。ミステリーはアガサ・クリスティや横溝正史、松本清張の『砂の器』など、これもたくさん読みましたね。

コンピュータの冷たさにキャラクターの温かさを

 大学の漫画研究会の知人に編集者が多くて、三山のぼるさんの『探偵桃語』や、さいとう・たかをさんの『ゴルゴ13』などのマンガ原作を手伝うようになりました。その頃、小池一夫さんの「劇画村塾」3期生として1年間勉強したんです。それまでは世界観や設定から物語を作ろうとしていたんですが、小池さんは真逆で「マンガはキャラクターだ、キャラクターさえ立てれば話は勝手にできる」と言う。目から鱗でした。いかに人物に興味を持たせるか。思えば『国盗り物語』の斎藤道三もそうなんですよね。

 ほぼ同時期にコンピュータを入手して『ラブマッチテニス』を作りました。コンピュータって冷たいイメージがあったので、温かみ、人間性が欲しいなと思ったんです。そこでテニスの対戦相手にキャラクターを持たせ、喋らせた。本作がきっかけとなってゲーム作りに関わることになります。

 当時「ログイン」という雑誌があって、「海外ではコンピュータでお話を作っている」という半ページほどの記事が載っていたんです。今でもはっきりと覚えています。それを見て「あっ、確かにできるな」と思って作ったのが『ポートピア連続殺人事件』でした。

 コンピュータは「A」と話しかけたら「B」と返事をする、「C」という行動をしたら「D」という状況になる、という無数のパターンをプログラミングして完成します。このキャッチボールで話を進めるには、"犯人を捜す"という明確な目的があったほうがゲーム的だし没入しやすい。ミステリーはそれにぴったりの形だったわけです。物語は事件現場から始まり、犯人逮捕で終わる。じゃあ、いちばん意表をつく犯人は誰か、と考えて、あの人に(笑)。スタートとゴールを決めて、そのあいだにドラマを作り、プレイヤーを誘導するように組み立てる。楽しい作業でした。『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』『軽井沢誘拐案内』とミステリーを作ったのち、ロールプレイングゲームを作ろうと『ドラゴンクエスト』に着手したんです。

 当時ハマっていた海外ゲーム『ウィザードリィ』は、モンスターを倒して経験値を積み、自分が強くなっていくシステム。これが非常に面白かった。だけど、ちょっと難解だったので、もっとわかりやすく物語のレールをひいたら、みんなやってくれるんじゃないかと思ったんです。主人公は勇者で、強くなって魔王を倒す物語、という明確な目的を設定して、お話を作っていこうと。

 シリーズを重ねるにつれて悩むのは、魔王のキャラクター造形ですね。Ⅲのゾーマは死の美学、滅びの美学に取り憑かれたキャラクター。ほかにも人間が魔物に憑依されたり、邪心に取り憑かれたり。「悪」の存在だけど、いきなり勇者を倒しに来ちゃったらストーリーにならないので(笑)、勇者が戦っているあいだ魔王が何をしているかも含めていろいろ考えています。

現代のSNSはRPGである!?

 Ⅳでは、仲間もキャラクター性を高めることにしました。おてんば姫と家来、商人、真面目なおっさん戦士……と大まかに決めて書くうちに、だんだん性格やバックボーンができてくる感じです。最初の設定ができたところで鳥山明さんにイラストをお願いします。旅をする姉妹で、踊り子と占い師で、お姉さんの方は奔放で……などとおおよそのイメージを伝えて描いてもらう。その絵を見て、またイメージが膨らみ、ストーリーの枝葉が広がります。

 鳥山さんが凄いのは「鳥山明さんのマンガ作品の絵」ではなく「ドラゴンクエストの絵」になっているところ。主人公のビジュアルについては、鳥山さんも毎回悩むそうです。作品ごとに変えないといけないし、極端な外見だとプレイヤーが「こんなの俺じゃない」と感情移入できない。魅力的なんだけど癖がないキャラクターというのは難しいと思います。

 人物やアイテム、魔法のネーミングも悩みますね。特に魔王の名前は強そうじゃないといけないし、声に出して音でイメージが湧くかどうか、検討しながら考えます。「トルネコ」なんて、音の印象でなんとなくイメージが浮かぶでしょう(笑)。人名事典はよく見ますね。こんな名前があるのかって。

 最初の『ドラゴンクエスト』発売から30年たって、社会情勢や文化も変わりました。僕はSNSも一種のRPGだな、と思うんです。プロフィールがあって、会話をして、フォロワーが増えると強くなって……ネットの世界に冒険に出ているようなもの。それが一つの物語になっています。

 昔は、ゲームは娯楽であり時間つぶしでもあった。でも今は、空き時間ができたらスマホのチェックをしなければいけなくて、いくら時間があっても足りないくらいでしょう。じゃあ、その中でどうやってゲームをやってもらうか。じつは、近年のものほど、さくさくと気持ちよく進められるように少しバランスを甘めにしています。それは時代に即して変化してきたことですね。

 逆に変わらないことは「分かりやすい」こと。コマンドもひらがなのままにしているし、プレイヤーを置いてけぼりにするような展開にしないように気をつけています。さらには、ゲームを通してプレイヤー自身が成長したと感じられることが大事だと思っています。XIは、ゲームの最後に「自分も頑張ろう、困難があっても乗り越えられる」と思ってもらえるようなものにしました。

 ドラクエを通して、友達と攻略法を探したり、兄弟で取り合ったり(笑)、そんな思い出のある人もいると思う。一種のコミュニケーションツールになっているんですよね。これからは老後の楽しみにゲームをやるって人も増えてくるんじゃないかな。いきなり盆栽に目覚める人ってあんまりいないでしょ(笑)。「ドラクエをやっていると楽しい、嫌なことを忘れられる」と感じてもらえるものを作り続けたいですね。

(構成/奥田素子 撮影/黒石あみ)

堀井雄二(ほりい・ゆうじ)

1954年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。ゲームデザイナー。学生時代からフリーライターとして活動し、「月刊OUT」「週刊少年ジャンプ」などで連載を担当。82年、自作のゲーム『ラブマッチテニス』がエニックス(現スクウェア・エニックス)主催の第1回ゲーム・ホビープログラムコンテストで入賞したのを機にゲーム制作の道へ。「ドラゴンクエスト」シリーズのほか、『ポートピア連続殺人事件』、「いただきストリート」シリーズなど、多くのヒット作を手掛ける。

 

堀井雄二さんをもっと知る
Q&A


Q1. 朝型? 夜型?

A1. 夜型。ふだんは朝5時くらいに寝て10時くらいに起きます。

Q2. 今、欲しいものは?

A2. 自由になる時間。

Q3. 好きな映画は?

A3.『天国から来たチャンピオン』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

Q4. 好きな音楽は?

A4. 仕事中、台詞を書くときは頭の中で読み返すので、だいたい無音にしています。

Q5. お酒は飲みますか?

A5. 飲みません。

Q6. 最近ハマったゲームは?

A6. 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。フィールド中歩いたり登ったりしてました。

Q7. ゲーム以外の趣味は?

A7. 吹き上げる風に乗る、屋内スカイダイビングが楽しかった! いつか空を飛ぶのが夢。

Q8. 座右の銘は?

A8. 人生はロールプレイング。

Q9. 一番古い記憶は?

A9. 3歳くらいの時、お婆ちゃんに背負われて路面電車に乗っている記憶。でも生まれた町には路面電車なんてなかったんですよ。どこなのかはいまだに謎です。

Q10. ゲームデザイナーになっていなかったら?

A10. マジシャンになってたかも。人をびっくりさせるのが好きなんですよ。


 

(「STORY BOX」2018年4月号掲載)

 

『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』

DQB

世界は、ブロックで出来ていた。

舞台は、"ブロック"でできた、初代『ドラゴンクエスト』の世界「アレフガルド」。「りゅうおう」によって荒廃してしまったアレフガルドの大地を、"物を作る力"を駆使して奪還し復活させていく、これまでになかった新しい物語。

▼公式サイトはこちら
http://www.dragonquest.jp/builders/

ゼネラルディレクター:堀井雄二
キャラクターデザイン:鳥山明
音楽:すぎやまこういち
製作・開発:株式会社スクウェア・エニックス
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