物語のつくりかた 第2回 宅間孝行さん(俳優・脚本家・演出家)

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 かつて"日本一泣ける劇団"と称され人気を博した「東京セレソンデラックス」。その解散後、主宰者だった宅間孝行さんは新たにプロデュース集団「タクフェス」を立ち上げた。そしてこの春、幕を開けるのは、意外にもコメディ作品だという。
 俳優、脚本家、演出家、映画監督とあらゆる角度からエンタテインメントを追求する宅間さんの創作の原動力は意外なところにあった。

『笑う巨塔』は病院のロビーを舞台にしたワンシチュエーションコメディです。その前身は2003年に「東京セレソンデラックス」で上演した『HUNGRY』という作品。タイトルを『笑う巨塔』と変え、12年に初演、今回が再演となります。僕は本番中もどんどんブラッシュアップしていくので、12年版の台本も初日と最終日で違います。再演にあたりその台本からさらに一部のキャラクターを丸ごと書き替えました。さらにこれから稽古を重ねる中で、今回の個性豊かな俳優陣のタレント性をどう引き出していくか、楽しみです。

 今、こんな作品を書けと言われても書けないかもしれない。それくらいの若い熱量から生まれたものです。15年前の執筆当時は、まだ芝居で飯を食えるほど売れていなかった。そうすると世の中への嫉妬が募ってくるんです。若者らしい気概というか、「あの人たち、売れてるけど面白くねえよ」って思うことも。そんな時に仲間と酒の席で議論になって、一人がある劇作家を褒めたんです。それを聞いて「いや、面白くない」と反論して。「シチュエーションコメディはこうあるべきだ。そうなってない、笑えない。出来もよくない」と言ったら「そこまで言うならお前書いてみろ」と。「じゃあ書いてやるよ!」と啖呵を切ってできた作品なんです(笑)。

 創作って、そういう「ちくしょう、負けてらんないぞ」っていうエネルギーが必要になることもある。文芸の作家にしろ俳優にしろ、ヒリヒリするような感情から良い作品が生み出されていくように思います。そんなネガティブなところから、よく笑いに持っていけたなとは思いますけど。

 シチュエーションコメディは舞台装置ひとつ、場面転換もありません。だから時間を飛ばすことができない。流れる時間が一定なので、物語の整合性が重要なんです。登場人物16人が舞台上で、あるいは見えないところで各々別のベクトルで動き続けるから、ひとつ動きを変えるだけで全体に影響してしまう。もちろんコメディだから笑えることがいちばん大事ですけど、その上で緻密なパズルを組むというハードルの高い作業でした。自画自賛ですけど、よくできてるなって思います(笑)。

脚本と小説と

 僕は登場人物のバックボーンをかなり細かく作りこみます。大学ノート1冊分くらい描写を蓄積してからじゃないと書けません。キャラクターの生い立ち、息遣い、声までイメージすることで、俳優と人物造形を共有しやすくなります。

 身近な人をモデルにしたり、映画、本を参考にしたりして肉付けしていくことも。連城三紀彦さんの『私の叔父さん』にインスパイアされて『夕』という作品を作ったこともありますね。執筆時期は、小説だけでなく、ノンフィクションなども手当たり次第読みます。あえて自分の興味のないところに突っ込んでいくと新たな発見があるんです。

 10年に劇団で上演した作品『くちづけ』はその後映画になり、さらに小説も書きました。これが大変だった! 映画の脚本はまさに「脚」で、それを土台に監督が咀嚼し、道具や衣装を揃え、俳優に演技指導して画を作っていく。小説はそれを作家一人で作り上げないといけない。

 担当編集者に「擬態語は使わないでください」と言われたんです。例えば「スタスタ歩く」ではなく、歩幅、スピード、流れる風景で表現してくださいと。「スタスタ」は作家の主観だから、それを読者と共有するために細かく書きこんでくれと言う。目から鱗とはこのことでしたね。見返してみたら僕の書いたものは擬態語だらけで(笑)。劇団の上演台本を書いた段階で人物像は作りこんでいたので、自分のノートを遡り、脚本になかったエピソードも盛り込んで、描写を客観的に書き直し……勉強になりましたが、もうやりたくない! と思いました(笑)。文芸の作家さんは本当にすごいです。

 タクフェスでは、俳優、脚本家、演出家という肩書きは意識せず、お客さんを楽しませるものを作りたいと思っています。外部から仕事を依頼されるときに「この役を演じて欲しい」「こういう脚本を書いて欲しい」と言われて初めて「俳優業」「脚本家業」が独立してくる感じです。

 自分たちの公演は、お客さんがついてくれないと続けていくことができないので、感想や要望を取り込んで次回作に繋げていくことが多い。じゃあお客さんが喜んでくれるなら何をやってもいいのかというと、それも違う。そこでせめぎ合いながら作っているところはありますね。突き詰めれば「すごいもの作ったなあ」と言われたい。絶対お客さんを笑わせてやる、度肝を抜いてやる。ほとんど執念みたいな気概で作っています。

(構成/奥田素子)

宅間孝行(たくま・たかゆき)

1970年東京都生まれ。タクフェス主宰。俳優として映画、ドラマに多数出演する一方、脚本家・演出家としても活動(09年まではサタケミキオ名義)。主な脚本作品に映画「くちづけ」(脚本・出演)、ドラマ「花より男子」(TBS)シリーズ、「間違われちゃった男」(CX)などがある。劇団作品の映画化として『あいあい傘』の監督・脚本を務め、18年秋公開予定。

(「STORY BOX」2018年3月号掲載)

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都内のある病院に、選挙を控えた山之内代議士が突然倒れ運び込まれた。息子で秘書でもある蓮太郎は検査結果を待ちわびる。一方とび職の親方・花田は検査入院中。そこへ昔、花田の元で修業していた迷惑者・富雄が現れた。さらに政界の古狸、浜惣は元横綱・三子山親方の見舞いに来て……。様々な想いと事情が交錯し、平穏だった病院はとんでもない事態に!

▼公式サイトはこちら
タクフェス 春のコメディ祭! 2018年公演「笑う巨塔」

作・演出:宅間孝行/出演:宅間孝行 篠田麻里子 片岡鶴太郎 ほか/企画:タクフェス/制作:関西テレビ放送/東京公演2018年3月29日~4月8日 東京グローブ座 お問い合わせ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(10:00~18:00) 他、愛知、兵庫、愛媛でも上演決定

翻訳者は語る 最所篤子さん
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