今月のイチオシ本【ノンフィクション】東 えりか

『サイコパス解剖学』
春日武彦 平山夢明
洋泉社

「サイコパス」という言葉をよく聞くようになったのは映画『羊たちの沈黙』がヒットした後だと思う。アンソニー・ホプキンスが演じた頭脳明晰な殺人犯、ハンニバル・レクター博士のような人、それをサイコパスと呼んでいた。

 狂気を孕んだ天才は魅力的だ。そういう人間すべてがサイコパスというわけではないが、昨今ではサイコパスについて脳科学者が著した本がベストセラーにもなっている。

 本書はホラー作家と精神科医がサイコパスという存在と彼らを取り巻く現象を縦横無尽に語り合ったものだ。片や犯罪者の精神鑑定も引き受け、時には小説も書く精神科医の春日武彦。もうひとりはホラー作家であり「デルモンテ平山」名義で映画評も書く平山夢明。ふたりはすでに「狂い」をテーマにした対談本を二冊出している。どちらもおおっぴらに言えないことを、暴言に近い生の言葉で語り合っていた。溜飲は下がるが、人に薦めるときは小声になってしまう本だ。

 だが今回は少し違う。ある意味ヒーロー視される「サイコパス」に対する一般の人への啓蒙を行っている。

 最初に取り上げたのはアメリカのトランプ大統領。かつてなら選ばれるはずのない問題発言山積みのサイコパス的男が、どうして大統領になったのかを現代のアメリカの問題と精神性から読み取る。

 特に精神科医の春日の見るサイコパス像が興味深い。SNSの発達で、まわりに「変だ」と思われている人が、全世界と簡単につながる時代だ。隣の奇人からシリアルキラーまですべてサイコパスで片づけられているが、精神科でははっきりとした定義はないという。「反社会性パーソナリティ障害」と「境界性パーソナリティ障害」が重なっている場合があり、一概に判断ができないらしい。

 本書にはサイコパスを疑われる政治家や犯罪者が実名で登場する。FBI心理分析官として有名なロバート・K・レスラーと仲良くなった平山の体験談もかなり怖い。サイコパスはどこにでもいるらしい。関わらない方がいい人を見つけるために、この本は役に立ちそうだ。

(「STORY BOX」2018年3月号掲載)

(文/東 えりか)
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