今月のイチオシ本 ノンフィクション 東 えりか

『ぼくは13歳、任務は自爆テロ。 テロと紛争をなくすために必要なこと』
永井陽右
合同出版

 テロが起こるのは違う世界の話だと思っていたのだが、ここ数年、そうとは言えなくなってきている。つい先ごろもロンドンで爆発のあった地下鉄に知人が乗り合わせていたと聞いた。日本でもいつか起こる、そんな予感は誰もが持っているだろう。だが長い平和を甘受してきた日本人にとって、テロは怖いばかりで具体的には何も対処できていない。

 本書はアクセプト・インターナショナルというテロ・紛争解決を専門とする日本生まれの国際NPOで代表理事を務める永井陽右による、中高生から読むことができる現代のテロと紛争の入門書である。ケニアとソマリアを主な活動地域とするこのNPOは、テロ組織への加入防止とテロ組織からの脱退促進を行う。2011年、大学生だった著者は「世界でもっとも危険な場所」のソマリアを支援するNGO「日本ソマリア青年機構」を立ち上げ、その後、現団体でスラムの若者や元テロリストの若者の社会復帰を支援している。

 第1章では自爆テロ直前で逮捕された16歳の少年の背景を詳細に記す。幼い時に両親を亡くしたバシールは定職を持たない叔父に育てられ、貧困で小学校にも通えない。唯一の希望はイスラム教の毎日の礼拝で、近所のモスクでイスラム教を中心とした歴史を学ぶことが心の拠り所だった。やがて自分の貧しさや政治家の汚職、民族紛争とそれに介入する外国などに絶望と怒りを覚えるようになる。

 地元のギャンググループに加入したバシールの憤りに共感してくれる人物がモスクに現れる。ソマリアを支配しているのは西欧諸国の外国人で、イスラムの教えは消されようとしていると説き、「この世界を変えようと気高くジハードしている勇者」が集うアル・シャバーブへリクルートしたのだ。洗脳されたバシールは戦闘要員として教育を受け自爆テロ一歩手前で逮捕された。

 10歳から15歳ほどの子どもは驚くほど感化されやすいが、対話によって共感も得やすい。現実に依拠した解決方法をひとつひとつ実行しようとしている日本人の若者の活動を支援していきたいと思う。

(文/東 えりか)
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