国会議員基礎テスト
第八回

 問四 国会議員の歳費について説明せよ 

 国会議員に支払われる給料は、歳費と呼ばれる。 

 民間サラリーマンと同じように月額の歳費と、年二回の期末手当が支給され、これらを合計すると、一般の国会議員の年収は二千万円を超える。 

 さらに文書通信交通滞在費という手当が、月百万円ずつ支給される。この手当に、報告や公開の義務はない。基本、使い道は国会議員の自己裁量に任せられているため、投資などに流用されても誰もチェックできず「第二の給与」などといわれている。 

 ちなみに、国会議員には、鉄道軌道乗車証が交付される。平たくいえば、JRのただ乗り券である。 

 JRパスには使用回数の制限はなく、行き先や目的をいちいち事前に報告する義務もない。だから国会議員は一年中快適なグリーン車で、日本全国をただで旅することができる。 

 とはいえ、月百万の文書通信交通滞在費の中には、文字通り交通費も含まれているはずだ。これでは、交通費の二重取りと見られても仕方ない。 

 しかもこれだけが国会議員の収入ではない。 

 議員には、政治献金が認められている。この他にも、政治資金パーティーの収益、党からの公認料、党や派閥からもらう夏の氷代、暮れの餅代など、様々な金が議員の元に集まる。 

 合計すると、国会議員の稼ぎはいったいいくらになるのか見当もつかないが、これだけで満足できるほど彼らは淡泊ではない。

 

 

 杉本真菜。 

 二十四歳独身。大学を卒業し、東京に本社のある食品加工会社に、正社員として採用された。ところが、真菜が勤め始めてからほどなくして、会社が材料の原産地を長年偽装表示していたことが発覚。信用はガタ落ちし、製品は売れなくなり、会社の業績は悪化した。昇給は据え置きとなり、ボーナスも支給されず、真菜は早くも転職を考え始めた。 

 しかしながら、密かに履歴書を送った企業はどこも第二新卒には冷たかった。契約社員ならともかく、正社員は難しいと企業の人事担当者は口をそろえた。 

 いよいよ、会社がリストラを始めた時に、真菜の元に栃木の実家から連絡が入った。 

 元々娘が東京に行くことに反対をしていた父は、そろそろ家に帰ってきてはどうかと迫った。

「どうせ、もうすぐ潰れるんだろう。それに、あんな会社にこれ以上勤めてると、お前まで食品偽装の罪を着せられるぞ」 

 父親は電話口でまくしたてた。

「それはわかってるよ、おとうさん。だから今、次の就職先探してるから」

「見つかったのか?」

 口ごもりそうになったが、「いくつか目ぼしいところはある」と答えた。

「正社員じゃなくて、契約社員だけど、いずれ正社員に昇格も可能だって」

「だめだ、だめだ」

 父は即座に否定した。

「契約社員から正社員になれるなんて、夢のまた夢だぞ。今はどこも厳しいんだ。東京なんかにいるから、そんなに苦労するんじゃないか。家に戻ってこい。実家にいれば、少なくとも家賃の心配はしなくてすむだろう」

 グラッと気持ちが傾きかけた。確かに東京に住んでいると、家賃支払いのために仕事をしているような錯覚に陥る時がある。それほど首都圏の家賃は高い。

「だけど、そっちじゃもっと仕事が見つからないでしょう」

 真菜の実家は栃木県X市。産業といえば農業と観光くらいしか思いつかない。

「いや、あるよ」

「あたし、野菜作りとか向いてないし、旅館の仲居さんとかもできないから。この世でもっとも苦手なことがベッドメーキングだし」

「そういう仕事じゃないよ。実はおとうさんの知り合いの知り合いが、人を探していてね……」

 X市出身の国会議員が秘書を募集しているという。

「お前確か、法学部の政治学科だったろう」

「本当はフランス文学をやりたかったの。でも、落ちたの」

「とはいえ、きちんと政治の勉強はしたわけだ。その人にお前の話をしたら、ぜひ会いたいといっているらしい」

 大学の授業などまともに出なかったから、政治に特段の興味はなかった。しかも秘書だという。がさつで細かい気配りが苦手な自分が、秘書など務まるとは思えない。

「あたしに向いているとは思えないな」

「まあ、話だけでも聞いてみたらどうだ」

「悪いけど、断って。興味ないし」

「その国会議員ってのはな、黒部優太郎だ」

「ふ~ん。黒部優太郎? まっ、話くらいだったら、聞いてみてもいいけど」

 父の前では取り繕ったが、逸る心を抑えることはできなかった。

 黒部優太郎だって! 冗談でしょう?

 ファッション誌にグラビア記事が載った時から気になっていた。カッコイイ人だったので、てっきりモデルか俳優だと思っていた。

 ああいう人の元で仕事ができるなら、断る理由はない。取材や後援会のアレンジなど、マネージャー的な仕事を任せてもらえたら、楽しいかもしれない。

次記事
前記事