国会議員基礎テスト
第六回

 問三 委員会の定義を述べよ 

 

 委員会を欠席してから一週間も経っていないのに、今度は優太郎が「橋本さん。明日の昼の部会、また代理で出てくれないかな」と要請してきた。 

 自由民権党では、国会開催中、朝と昼に部会が開催される。党本部には厨房施設があるので、朝食や昼食を兼ねた、連絡会・勉強会のようなものである。 

 これは、本会議や委員会のような公務ではなく、党務なので、比較的縛りはゆるい。欠席も可能であるが、その場合は代理人を立てるのが通例だ。委員会の差し替えとは違い、秘書でも代理出席はできる。

「ちょっとさあ、重要人物とメシを食わなきゃならないことになっちゃったんだよねー」

「重要人物とはどなたですか」 

 怒りを堪えながら、橋本は問い質した。委員会の差し替えが終わったと思ったら、今度は部会。しかも欠席するのは、三度目だ。

「橋本さんの知らない人だよ。ぼくのことをえらく気に入ってくれている。有権者は大切にしないとね」

「有権者を大切にするのはもちろんですが、部会も大切ですよ」

「それは、わかってるけどさあ。そこは、ぼくよりずっと経験豊富な、橋本さんがいるじゃない。ぼくなんかが出るより、橋本さんが出席するほうが、上の連中も安心するんじゃないかなあ。ぼくだと聴き漏らしがあるかもしれないけど、橋本さんは重要事項は絶対外さないし」 

 口をあんぐりと開けそうになった。この男は無邪気にも、代議士より秘書の方が有能だといっているのだ。

「明日昼飯を食う人はさあ、票をたくさん持ってるんだよ。だから、無下に断れないんだ。橋本さん、頼むよー」 

 手刀を眉間の前に立て、片目をつむる優太郎に対し、もはや反論する気は失せていた。どうせ、重要人物なんてのは嘘っぱちだろう。どこかでナンパした娘と、ランチでも食べるに決まっている。

「わかりました。何時にお帰りですか」

「また連絡するよ。ちょっと遅くなるかもしれない。その時は、よろしく頼みます」 

 まるでスキップをするような足取りで、執務室を後にする優太郎を、橋本は大きなため息とともに見送った。 

 ところで、自由民権党とはその党名とは裏腹に、自由とはほど遠い政党である。とくに内部の身分制度は厳しく、部会では肩書ごとに座る場所が決まっている。 

 白いクロスが掛けられているテーブル席に座れるのは、国会議員だけだ。それ以外の列席者は、安っぽい会議テーブルに座らされるか、席がない場合は立ちっぱなしで会議を傍聴することになる。 

 食事も、国会議員だけに出される。付き添いの秘書などは、指をくわえながら、親分たちが飯を食べ終える様をながめているしかない。 

 部会のある会議室に入るなり、橋本は付き添い秘書の定番席である古びたテーブルの一番端に腰かけた。 

 まだ、列席者はほとんどいない。カレーの香ばしい香りが漂ってきて、不覚にも腹がグーと鳴った。今朝は忙しくしていて、朝食を取る時間がなかったのだ。 

 やがて部会のお歴々が現れた。橋本は立ち上がって、彼らを出迎えた。あの昭和最後の妖怪、藤田議員も列席していた。

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