国会議員基礎テスト
第二十九回

 この件を優太郎に話すと「いいんじゃない。面白そうだねー」とあくまで能天気に構えている。

 テレビの番組欄に目を通せば「TVバスター四時間スペシャル 政治家たちの深層に迫る、緊急生放送。今夜スタジオで、すべてが暴露される!」などと煽情的なタイトルが躍っていた。

 TVバスター初の試みとして、インターネットTV・ニヤニヤ生放送とのコラボを実現したという。普段テレビを観ないでネットばかりやっている連中も、引き込む目論見なのだろう。

 これほど大掛かりな仕掛けを作って、いったい何をしようとしているのか。一抹の不安を感じながら、日曜日の晩を迎えた。

 テレビを点けると、日本で一番ギャラが高いと噂されるフリーアナウンサーが、マイクで自己紹介をしていた。

「装いを新たに始まりました、TVバスター・拡大四時間スペシャル、わたくし、司会を務めさせていただきます、古達三郎です」

 古達アナのバックには巨大なモニターがあり、優太郎を含む、八人の政治家たちが上下二段の、ひな壇に座っている姿が映し出されていた。

 自由民権党からは、優太郎の他、あのおバカ発言で有名になった、内田修造。最大野党、民政党の若手国会議員一名。その他野党四党から各一名ずつ。そして、なんとあの号泣県議も末席を汚していた。

 県議は、議会で議員辞職を迫られ、現在謹慎中のはずだ。よくぞ番組に顔を出せたものだと、真菜は目を見張った。

 モニターは、視聴者からの書き込みが自由になっていて、すでに数多のコメントで、政治家たちの顔が見えないほど埋め尽くされていた。

「今、わたくしどもがいる、ここ第二スタジオから、この巨大モニターに映し出されている第一スタジオが見えます。第一スタジオには、当番組のレギュラーでいらっしゃった黒部優太郎先生をはじめ……」

 古達が出演者の紹介と、番組の説明を始めた。これから第一スタジオに控えている議員たちにあることにトライしてもらい、その様子を第二スタジオから視聴者と共に見学するという構成らしい。

 何にトライしてもらうのかは、議員たちには知らされていない。無論真菜も知らない。ADの鮎川は何も教えてくれなかった。

 いったい何が始まるんだろうと、真菜はテレビ画面に釘付けになった。

「それでは、第一スタジオの加藤さん」

 画面が切り替わると、そこが正に優太郎たち議員が鎮座しているスタジオだった。

「番組を始める前にまず、黒部議員から視聴者の皆さまにお話しすることがあります」

 加藤アナウンサーがいうと、優太郎が立ち上がって、ペコリと頭を下げた。画面からは見えないが、スタジオにはマスコミ各社の人間が集まっているのだろう。

「このたびは、私事で皆さまにご迷惑及び、ご心配をおかけいたしまして、真に申し訳ございません」

 優太郎が話し始めると、再び画面が古達のいる第二スタジオに移った。スタジオのモニターに映された優太郎の画面上に、(女ったらし)(サイテーの男だな)と、辛辣な視聴者のコメントが流れて行く。

 優太郎の釈明は、シンプルで、ものの二十秒で終了した。これでは不十分と判断したのか、加藤アナが優太郎にマイクを向ける。

「ということは、路上で抱擁した後、ホテルに誘ったのは、議員のほうなのですか」

「ええ、そうです」

「相手が結婚していたのは、ご存じだったんですよね」

「ええ、まあ」

(こいつ、反省の色、まったくないじゃん!)

(無理やり連れ込んだんだろう。逮捕しろよ)

(女性の敵。粛清を望みます)

 書きこみが次第に過激になってゆく。

「紺谷さんには、ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」

 一人で謝る必要ないじゃない!

 真菜は画面を見ながら叫んでいた。誘惑したのは、紺谷アナのほうなのだから、少なくとも同罪だ。

「それから、某週刊誌に書いてあった、婚約者? 元婚約者ですか? の手記ですが、あれに対する反論はないのですね。すべて真実なのですね」

「はい。だいたい、合っていると思います」

(こいつに投票した有権者、呼んで来い!)

(日本の国会議員って、レベル低すぎ!)

(もう自由民権党には投票しません)

(黒部優太郎 終了。ご愁傷さま)

 モニターには、次々に憤りのコメントが流れた。

「ぼ、ぼくもちょっとだけいいですか?」

 号泣県議が手を挙げた時、視聴者の関心は、瞬時にそちらに移った。

(こいつ、何いう気だよ)

(謹慎中なんだろ。こんな番組に出てていいのかよ)

「ええと、すみません。もう時間がございませんので、番組を進めさせていただきます」

 スタジオ内でまた大泣きされたら困ると思ったのか、加藤アナがあわてて止めに入った。

「それでは、本日の番組の趣旨をご説明しましょう」

 古達が再び、司会に戻った。

 モニター上から、優太郎に対する誹謗中傷の書き込みが無くなってホッとしたのもつかの間、古達の説明に、鉛を飲み込んだように胃が重たくなった。

 なんと古達は、議員たちにこの場で試験を受けさせたいといったのだ。国会議員検定試験だという。

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