国会議員基礎テスト
第二十八回

 ところが世間は、会見を開けと、優太郎を追い詰めた。こそこそ隠れていないで、表に出て釈明をし、謝罪しろというのだ。

 党本部は、この圧力に負け、釈明会見を開くよう優太郎に命じた。

「釈明会見はいいんだけどさあ、本当のことは話せないんだよね。まあ、話を作っちまえばいいけど」

 永田町の事務所で、優太郎がぼやいた。

「作っちまうって、どういうことですか」

 真菜が尋ねた。

「これからいうことは、秘密にしておいてくれる?」

 いつもヘラヘラしている優太郎が、珍しく真面目な顔で念を押した。

「もちろんです。誰にも口外しません」

「実はさ、誘ったのは恵美ちゃんのほうなんだよ。いきなり路上で抱き着いてきてさ。唇を奪われたんだ」

 えっ?

 真菜はまじまじと優太郎の顔を見つめてしまった。

「本当なんだよ。彼女、肉食系で有名だから。大胆なんだよね」

「記者に尾行されていたことは、気づかなかったんですか」

「まったく気づかなかった。ぼくも、恵美ちゃんも。さすがプロだよ。だけど、ぼくらの間に何かあることは、バレバレだったからね。なにせ恵美ちゃんのアプローチが凄かったんだ。スタジオの中で、何度も思わせぶりな目くばせしたり、ぼくの肩にしな垂れかかったりしてきたからねー。ゴシップ記者が嗅ぎつけてきたのも当然だよ」

「ホテルにも、紺谷さんから誘われたんですか」

「はっきりと誘われたわけじゃないよ。ダンナの愚痴をさんざん聞かされてさ。ガサツで無神経で、結婚するまで、そんな男だとは気づかなかったって。おまけに、絶対に秘書と浮気してるって言い張るんだよ。で、今晩は帰りたくない、ダンナは出張にかこつけた不倫旅行で留守だからって、すり寄ってきて」

「それでホテルに連れて行ったわけですね。その時、友麻さんの顔は、浮かばなかったんですか」

「それは、チラッとだけね。だけど、友麻ちゃんはぼくの奥さんでも婚約者でもないんだよ。まあ、強いていえばガールフレンドの一人かな。結婚の約束なんて、一切したことないのにあんなことを書かれて、ホント、驚いてるんだ」

 復讐心ばかりではなく、おそらく多少の報酬をもらって友麻は事実とは違う手記を書いたのだろう。

「だけど、釈明会見では、この二つに触れたら、やっぱマズいよね」

 真実を告げたら、世間はさらに優太郎を叩くに違いない。女のせいにするとは最低の男、反省の色まるでなしと、言いたい放題の記事が誌面を騒がせるだろう。

「全部ぼくのせいにして謝っちゃうのが、一番手っ取り早いかもね」

 とはいえ、責任をすべて優太郎がかぶっても、叩かれることに変わりない。

「でも、それで本当にいいんですか」

 真実を暴露するのは得策でないとはいえ、優太郎一人悪者になるのも不憫だ。

「別に構わないよ。会見の準備とか、真菜ちゃんに任せていいかな」

 記者会見のアレンジなどはじめてのことだったが、仕方ないと重い腰を上げかけた時、電話が鳴った。橋本からだった。

 是非とも優太郎に、再びTVバスターに出演して欲しいという。

「番組出演がきっかけだったわけだから、番組内で謝罪するのが、順当ではないかと思うんだ」

「ですが、出演できるんですか」

 紺谷アナと共に、レギュラーを降ろされたばかりだ。

「問題ない。スポンサーとも話はつけてあるそうだ」

 もしそれで済むのなら、記者会見などアレンジしなくてもよい。優太郎に相談すると、問題ないという。

 優太郎は再び、TVバスターに出演することになった。

 暫く経って、番組ADの鮎川から連絡があった。

 生放送でやるという。おまけに、四時間のスペシャル番組である。まさか四時間も釈明会見をするわけがないので、どういうことか尋ねると、鮎川は含み笑いをしながら、それは当日お伝えします、と答えた。

「黒部を批判する内容じゃないんですね」

 真菜は、電話口で問い詰めた。

「違いますよ。黒部先生には番組の冒頭で、数分間釈明していただくだけで結構ですから」

「では、残りの時間は、どのような内容になるんですか。いつもみたいに、一週間に起きたニュースの総まとめですか。それにしては、長いような気がするんですけど」

「ですから、それは秘密です。生放送ですから。サプライズですよ」 

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