国会議員基礎テスト
第二十七回

「これは、いったいどういうことですかな、若先生」 

 眉を吊り上げる立花の前で、優太郎はまるで叱られた小学生のように、首をすくめた。 

 日曜日の栃木の議員事務所。週末に帰省した真菜と優太郎、それに立花の三人が会合を開いていた。

「こっちにまでマスコミが押しかけて来て、あれこれ訊かれましたぞ。週刊誌の記事は真実なのかと」

「写真まで撮られちゃったんだから、真実じゃないといったって、誰にも信じてもらえないだろうね。でも、友麻ちゃんのいってることは、事実じゃないよ。結婚とかハネムーンとか、一言も口にした覚えはないんだ」

「じゃあ、どういうつもりで付き合っていたんですか?」 

 思わず真菜は、声を上げてしまった。優太郎は地元でも、複数の女性を泣かせてきた。女性のことを、いったい何だと思っているのだ。

「どういうつもりって、まあ、自然にそんな雰囲気になったから、デートしていただけだよ。断る理由もないし」

「断る理由がないって……先生が女性とお付き合いする基準って、いったいナンですか。断る理由がないなら、どんな女性とも付き合うことができるんですか」 

 自分でも興奮していることはわかってはいたが、構わず質問を続けた。チラリと、立花が真菜の表情をうかがった。

「どんな女性とも付き合えるってことはないけど、まあ、フィーリングが合えば、ってことだと思うけど」

「友麻さんとは、もうフィーリングが合わなくなっていたんですか?」

「いや、そんなことはないよ」

「じゃあなぜ、紺谷アナとあんな関係になったんですか」

「関係と呼べるような関係なんて、ないんだよ。気が付いたら、ああなってた。でも、あの時だけだ。あれから彼女から連絡はないし、ぼくからも連絡はしていない」

「気が付いたら、ああいうことになっていたー? じゃあ、気が付く前はいったいどうだったんですか?」

「気が付く前は、特に何も感じていなかった。まあ、綺麗な人だとは思っていたけどね」

「何も感じなかったのに、いきなりそんな関係になったんですか?」

「だから、そこがフィーリングなんだよ」 

 優太郎のいっていることは、理解不能だった。真菜には今まで二人だけ、真剣に付き合った男性がいる。一人は、大学二年の時のクラスメートだ。いわゆる男女の仲になるまで、半年ほどかかった。二人目は社会人になってからで、こちらは一年近く友だち付き合いを続けた上で、やっと恋愛に発展した。

「フィーリングが合えば、誰とでもそんなことができるんですか? 友麻さんに悪いとは思わなかったんですか」

「それは、後になってそう思った。傷つけちゃったかなって。彼女が嫉妬したのも当然だ。だけど、週刊誌に書いてあることには、事実じゃない内容が含まれてる。記者がデタラメを書いたのか、それとも本人が嘘をいってるのか、わからないけどね。電話をかけても出てもらえないから」

「もう、テレビやら雑誌やらに出るのは控えてくれませんかな。ああいうものに出て、名前を売ろうとするのは間違っております。マスコミには注意したほうがいい」 

 立花が釘を刺した。

「橋本さんが持ってきた仕事だから、大丈夫だと思ったんだよ。まさかこんなことになるとはね。まあ自業自得だけど」

「党の執行部はなんといっている?」 

 立花が、優太郎にではなく、真菜に尋ねた。

「しばらく謹慎していろ、と命令を受けてます」

「でもさー。ぼくは、あんまり従いたくないんだよねー」 

 優太郎がダダをこねる子どものように、頬を膨らませた。

「何でもかんでも、党執行部の意向に従わなきゃいけないなんて、国会議員はロボットじゃないんだから。もっと自分の意志で行動させてくれないかなあ」

「それは一年生議員だから、仕方のないことです」 

 立花が眉を寄せた。

「でも国会議員って、一応国民の代表でしょう。国民の代表が、新入社員みたいに上の命令に従っているばかりってのは、どうかと思わない? 日本ってのは民主主義の国なはずなのに、自由民権党内部は民主的とは言い難いんだよねー。なんか、戦前の全体主義国家みたいな感じで」

「そういうことは絶対に、人前でいってはいけません。ところで、お父上のお見舞いには行かれましたか」 

 黒部優吾は、糖尿病から腎臓障害を併発し、現在入院治療中である。

「うん。行ったよ。元気そうだった」

「あまり、お父上を心配させてはいけません。ともかく、執行部が謹慎していろというなら、当分表には出ないことです」 

 優太郎が、渋々頷いた。

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