国会議員基礎テスト
第二十六回

 問九 国会議員に必要な資質とはなにか

 

「まさか、こんなことになるとはな」

 深夜の汐留のバーには人もまばらだ。

 TVバスターのディレクター須藤は、タバコの煙をくゆらせながら、ヤニに汚れた天井を見上げた。

「お前が仕組んだんじゃないのか」

 止まり木の隣に座っていた橋本が須藤をにらんだ。

「おいおい、よしてくれよ。そんな器用なこと、おれにできるわけないだろう」

 須藤は水割りを飲むと、クリスタルの灰皿でタバコをもみ消した。

「恵美ちゃんは、肉食系で有名なんだよ。結婚する前だって、IT長者との交際とか、噂が絶えなかったじゃないか」

「知らないな。おれは芸能通じゃないんでね」

「ホテル王の御曹司と結婚したばかりだっていうのに浮気するなんて、やっぱり黒部優太郎はモテモテなんだな」

「女にもてりゃ、政治家になれると思ったら大間違いだ」

 橋本が吐き捨てた。

「先生は、昔から下半身がだらしないんだよ。典型的な女ったらしだ。で、番組のほうは、今後どうなる?」

「恵美ちゃんは降ろされるよ。スポンサーの意向もあるからな。先生のほうも当分は呼べないね。この状況じゃ」

「それじゃ、意味ないじゃないか」

 橋本が声を荒らげたので、バーテンダーがチラリとこちらの様子をうかがった。

「だが、黒部先生は、これで一気に評判を落としたじゃないか。棚ボタだよ。お前の思惑とはちょっと違うけどな」

「これだけじゃ致命的なダメージにならない。色恋のスキャンダルなんて、誰にでもある。ましてや、先生自身は独身だしな。しばらく謹慎してれば、禊は終わるだろう。だけど、それじゃ困るんだ。黒部優太郎が番組から消えたら、意味がないじゃないか。どうにかすることが……」

 再び声を荒らげそうになった橋本は、深呼吸し、スコッチのグラスを傾けた。

「少し時間をくれよ」

 須藤が橋本の肩をパンパンと叩く。

「おれだって、今のTVバスターでいいとは思ってないんだよ。日曜のゴールデンタイムには、サラリーマン男性だってテレビを観てるんだ。もう少し、突っ込んだ作りをしたっていいんじゃないかと、おれ個人は思ってる。だけど、こういうのって、説得が大変でな。スポンサーがOK出さなきゃ、絶対に無理だし。だが、今回のことが、追い風になるかもしれないな」

「どういう意味だ」

「優太郎先生の件も含めた、先生たちの不祥事に対する反響をネットで調べると、もう少し政治家に厳しい目を向けようって風潮が高まっているのを、ひしひしと感じるんだよ。われわれマスコミも、そういう声に応えるべきだ」

 橋本がにんまりと笑った。

「頼んだぞ、須藤。うちの先生が番組から完全に降ろされたら、計画が水の泡だからな」

「ああ。頑張るよ。お前が持ってきた企画、局内でも面白いって評判だからな。だがもう少し、時間をくれ。お前の方こそ、黒部優太郎を逃がすなよ。さらし者になるから、もうテレビなんかに出たくない、なんていわせるなよ」

「その点は、心配するな。おれはあいつを、絶対に逃がさないから」

 スコッチの最後の一滴を飲み干すと、橋本は口許を引きしめた。 

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