国会議員基礎テスト
第二十二回

 翌日の晩、X市に残った橋本は大学の同級生と酒を酌み交わした。須藤という民放キー局のテレビディレクターで、やり手の男だ。人脈も広い。丁度須藤も所用でX市に来ていた。

「我が母校の卒業生は、X市にもいるんだよ。みんな、お前と一杯やりたがってるよ。政治家の秘書なんてやってるの、お前だけだからな。おまけに、今を時めくイケメン議員、黒部優太郎の政策秘書なんて、かっこいいじゃないか。時流に乗ってるよ」 

 須藤が橋本のグラスに、トクトクとビールを注いだ。

「うちの先生の評判はどうなんだ」 

 橋本が今度は、須藤のグラスにビールを満たした。

「まだ若いんだろう。当選してから一年も経ってないし。これからじゃないのか」 

 須藤が、ややいいにくそうに答えた。

「まあ、そうだけどな」 

 乾杯して、グラスを大きく呷った。

「そろそろ、おれもウンザリしてるんだ」 

 同級生の気楽さもあり、橋本は素直に心情を吐露した。

「まあ、気持ちはわからなくもないけどな。あっちが社長で、お前が秘書だ。おまけに十歳も年下だろう。ボンボンの三代目社長のサポートは、さぞかし骨が折れるだろうさ。しかし、そこを何とかするのが、お前の役目……」

「おれが相手をしているのは、三代目社長なんかじゃない。国会議員だ」 

 橋本がギロリとにらむと、須藤は口をつぐんだ。

「日本国民ってのは、優しいんだな。いったい国会議員一人にいくら金がかかると思ってるんだ。あいつらは、手当を含めりゃ年に三千万以上の金をもらってるんだ。JRのグリーン車ただ乗りチケットも、おまけでもらえる。みんなお前らの血税から払ってるんだぞ。少しは怒ったらどうだ」

「そりゃ怒ってるさ。おれが担当している番組でも、国会議員の歳費については問題にしている。だけどお前は、その国会議員の秘書をやってるんだろう」

「おれは、黒部優吾の秘書として雇われたんだ。ところが代議士は、身体を悪くして地盤を息子に譲っちまった。優太郎のことをよろしくと、随分とくぼんじまった目で頼まれたよ。わかりましたと答えたものの、正直、もう限界だ。おれの選挙区は栃木じゃないが、もし栃木県民だったら、絶対黒部優太郎には投票しないよ」

「そうか……」 

 空になった橋本のグラスにビールを注ぎ足し、小さく深呼吸してから、須藤は口を開いた。

「で、お前は何を企んでるんだ」

「力になってくれるか」 

 須藤の目を見すえながら、橋本がいった。

「そいつぁ頼み事次第だよ」

「お前に頼むのは、別にヤバいことじゃない。日本国民として、きわめて真っ当なことを頼みたいだけだよ」 

 

 

 橋本は藤田武雄にも挨拶に行くことを忘れなかった。 

 同郷で大学も同じの藤田は、自分の味方になってくれるという確信があった。黒部優吾の秘書として斡旋したというのも、いずれ自分が動き出すことを見越した上での人事だったのではあるまいか。 

 計画のすべてを話すと、目を閉じ、むっつりとした顔で聞いていた藤田が、深いため息をついた。

「まあ、それもしょうがないな。あの体たらくではな」

「では、お力になっていただけると?」

「党内の調整は、任せてくれて構わんよ。但し、きみがやろうとしていることについては、わしは聞いておらんぞ」

「わかっております。先生にご迷惑はいっさいおかけしません。しかし、党の調整以外に、先生にしかできないことが、ひとつだけあります」

「黒部くんか? 父親のほうだな。安心しろ。そっちは何とかしてやるから」

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