国会議員基礎テスト
第十九回

 問七 国会議員の役割について、具体的に述べよ 

 真菜が何気なくSNSを覗いていると、「黒部議員、具体的な施策なし。ガッカリ」というタイトルの日記を見つけた。Y市に住む、優太郎が出席した討論会を傍聴した会社員が書いたものである。 

 討論会? そんな話は聞いていなかった。 

 真菜は眉をひそめた。若者の雇用と貧困問題を考える会。そんなものに優太郎が精通しているとは思えない。おまけにパネラーとして参加しているのは、若者労務問題の専門家や、実際に現場で活動しているNPOの人間である。 

 案の定、日記には抑えた表現ではあるが、優太郎が今、社会で起きている問題を、あまり理解していないのではないか、というようなことが書かれていた。 

 橋本がきっちりサポートしていれば、優太郎が人前で恥をかくことはなかったはずだ。これまでだって橋本は、優太郎の実力が足りない部分を補っていたではないか。 

 いや……。 

 近ごろ単独行動が目立つ橋本は、もはや優太郎には見切りをつけているのかもしれない。 

 この件を報告すると、立花は大きなため息をついた。

「橋本さん、ちゃんと仕事してないですよ。立花さんからも、いってあげてください」

「橋本くんは、わしのいうことなど、聞いちゃくれんのだよ」 

 橋本は、優太郎の父、優吾から絶大な信頼を得ているという。

「ボンの教育係も、橋本くんが担ってたんだ。なにせ、先代は病床に臥しているからな。近頃の橋本くんの行状については、一応先代の耳にも入れておいたが、そろそろ優太郎も自立しなけりゃならんていうばかりでね。橋本くんのことを信じ切っているんだよ」 

 優吾の病状はかんばしくなく、近ごろではすっかり弱気になっているらしい。

「それにまあ、今回の討論会に関しては、政治家として当然の見識を求められたわけだから、橋本くんというより、ボンの勉強不足が主な原因だよ」 

 確かにそういわれてしまえば、元も子もない。 

 翌日、再び真菜がネットで検索をしていると、巨大掲示板で、優太郎のスレッドが立っているのを発見した。好意的とはいえないものだった。「黒部優太郎って、もしかしたらアホなんじゃね?」というタイトルだ。 

 Y市の討論会が起爆剤になり「そういえば、あの時もこうだった、ああだった」と優太郎が物を知らない証拠をあちこちから、かき集めている。 

 人気者が叩かれるのは世の常だが、ついに始まったかと、真菜は嘆息した。優太郎に批判的な内容は、今まではほとんど見かけたことはなかった。

 

 

 立花から、地元の小学校から国会見学の申し出があったと連絡があった。

「いいか、ぬかりなく対応するんだぞ。百五十名もいるんだ。これは無視できない票だぞ」 

 電話口で立花が、真菜に念を押した。 

 小学生の頭数まで票にたとえるのが、政治家の秘書なのである。たとえ小学生でも、親たちにアピールできる。国会見学の子どもの面倒を見るのは、格好の集票手段だ。 

 通常国会は一ヶ月の延長を経て、幕を閉じた。その翌週に小学六年生たちが、教師に引率され、ぞろぞろと人気のなくなった国会議事堂にやってきた。 

 案内は真菜が担当した。参議院であれば、衛視がガイドまでやってくれるが、なぜか衆議院にはこの制度がない。 

 表ではぺちゃくちゃうるさかった小学生たちも、建物の中に入ると、シーンと静まり返った。赤じゅうたんが敷きつめられた歴史を感じさせる内装が、厳かな気持ちにさせるのかもしれない。 

 ため息をつきながら辺りを見回している子どもたちを、衆議院の本会議場傍聴席に連れて行くと、「すげ~っ」「高くて怖い」「テレビで見たことある」と様々な反応を見せた。 

 一通りの見学が終わり、自由民権党控室に誘導した。ここで優太郎が、子どもたちに国会議員の役割について、レクチャーをすることになっている。

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