国会議員基礎テスト
第十七回

 永田町に来てから、真菜がもっとも頭を痛めたのが政治資金パーティー券の販売だった。

 政治資金パーティーは、議員個人の他、党や派閥が主催する場合がある。自由民権党が行う大規模な政治資金パーティーでは、各議員が分担してパーティー券を販売しなくてはならない。

 そのお鉢が、真菜のところに回って来た。まあ、こういうのは、議員というより秘書の仕事だということはわかる。ところが、栃木事務所の秘書たちは、ほとんど当てにできないことを知った。東京で主催されるパーティーには、交通費や滞在費がかかるため、地元後援会の人々の参加は期待できないのだ。

 橋本は「政治資金パーティーなんて、相変わらず発想が古いよな、自由民権党は。ともあれ、これも秘書としてのひとつの経験だから、頑張ってやってみなよ」などと、まるで他人事のようにいい放った。

 党の執行部からいい渡されたノルマは五十枚、百万円相当である。これが二回生議員になると、百枚。それから上も、当選回数に応じて、倍々ゲームで増えて行く。

 取りあえず、優太郎の名刺入れの中から適当な人物を選び、電話をかけたが、反応は今一つだった。別の議員から既に購入済みという個人や企業も多かった。同じパーティー券なら、陣笠議員なんかより党の重鎮から買うよ、ということらしい。

 期限内にさばけなければ、秘書が身銭を切らなければいけないと、他の議員秘書が教えてくれた。真菜は青い顔をして、あちこちに電話をかけまくった。電話ではらちが明かないと判断するや、飛び込みで企業の門をくぐり、総務担当者に面会を求めた。

 与党の自由民権党だから仕方なく「では、一枚だけ頂きます」と、不機嫌そうにいう総務課長を目の前にして、自分のやってることはヤクザがみかじめ料を要求しているのと大して変わりはないのではと、真菜は悩んだ。

 あちこちを回って頑張ってみたものの、残り二十枚がどうしてもさばけなかった。金額にして、四十万。新米秘書が自腹で買い取るには、大きすぎる金額だ。橋本が重い腰を上げ、協力してくれたが、売ってくれたのは僅か三枚だけだった。残り十七枚。三十四万円相当が、残っている。

 最後の手段として、優太郎に泣きついた。そもそも、なぜ議員本人が売りに行かないのかと、愚痴のひとつもいってやりたい。

 ところが優太郎は、思ってもみない反応をした。

「なんだー。そんなことで悩んでたんだー。早く相談してくれればよかったのにー」

 能天気な口調でいうなり、優太郎は財布の中から万札を引き出した。

「三十四万でしょう。ぼくが払うよ」

「えっ、でも、いいんですか」

「どうせ、暮れの餅代で戻って来るんだから、いいんだよ」

 つまり、ノルマ通りパーティー券を売り切れば、その分、党からご褒美の餅代として返ってくるということをいいたいらしい。

 優太郎は受け取ったパーティー券を、その場でビリビリと破り捨てると、鼻歌を歌いながら、出かけて行った。

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