国会議員基礎テスト
第十六回

 議員会館勤務が始まるとともに、優太郎の性格がより鮮明にわかってきた。とにかく思っていた以上に、チャランポランな男である。隙あらば、サボろうとする。書類の類をほとんど読まない。接客を秘書任せにし、自分はデートに勤しむ。 

 東京には懇意にしている女性がいるようで、どうやら彼女が本命らしかった。新藤友麻という女性だ。 

 事務所にやってくる人間には、橋本が応対している。優太郎が同席することは、あまりない。おもしろいのは、優太郎がプライベートで出かけている時ばかりか、委員会や本会議に出席している間も、平気で橋本がアポを取ることだ。 

 来訪者との接見は、議員執務室で行われる。会議テーブルの議長席に座る橋本は、まるで自らが代議士のようである。 

 栃木で会った時はにこやかだった橋本は、永田町ではどこかよそよそしかった。仕事のアドバイスを求めても適当にはぐらかすし、いつも単独行動で一切の説明がないため、具体的に何をやっているのかまるでわからない。 

 先輩秘書として、いろいろ助言してもらおうと思ったのに、これにはへこんだ。愛想がいいだけで、好き勝手に飛び回っている代議士。後輩秘書を育成する気持ちなど皆無の先輩秘書。こんな二人に挟まれ、真菜は時間を持て余していた。 

 当初の希望は脇に除け、なんでこんな場所に異動命令を出したのだと、立花を呪った。そう考え始めると、居ても立ってもいられず、真菜は栃木事務所の番号を押した。 

 電話に出た立花に、永田町の状況を一気にまくし立てた。受話器の奥は暫く沈黙していたが、やがてフーとため息をつく気配が伝わって来た。

「橋本くんは、いったい誰と会っているのかね」

「東京の支持者の人たちだと思います」

「先生は、そのことを知っているんだろうな」

「おそらくご存じかと思いますが……」 

 いや、多分、知らないと、真菜は心の中でつぶやいた。

「きみはさっき、先生はほとんど事務所にいないといっていたが、いったいどこにいるんだ。部会かね? それとも何かの勉強会や、視察に行っているのか」

「いえ……」 

 立花は、永田町での優太郎の素行を把握していないように思えた。橋本が立花に報告をしているとばかり思っていたが、どうやらそうではないらしい。 

 遅ればせながら、あることに気づいた。 

 立花は、橋本が信用できないからこそ、真菜をこちらに送ったのではあるまいか。真菜は躊躇したが、すべてをぶちまけることにした。

「特定の女性と頻繁に食事をしているようです。部会があっても、橋本さんに代理出席を頼んで、その女性と会っています。部会だけではなく、委員会も欠席することがあります」

「困ったモンだ、ボンにも……」 

 受話器の向こうで頭を抱えている立花の姿が、目に浮かぶ。

「で、若先生が国会を欠席している間、橋本くんがいろいろと動いているわけだな」

「はい、そうです」

「その詳細に関しては、やはり若先生は、理解していないんじゃないか」

「はい。おそらく」 

 今度は素直に認めた。

「まったく……」 

 受話器の奥のため息が、さらに深くなる。 

 立花は、本当は自分が永田町に行きたかったとぼやいた。しかし、地元後援会をないがしろにはできないし、持病の坐骨神経痛がヒドくなってきたため、慣れない土地での暮らしにはためらいがあるという。 

 ともかく、定期的にそちらの様子を連絡してくれといい残し、立花は受話器を置いた。

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